トランプ米大統領、独立記念日に異例の演説 軍を称賛

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アメリカ市民ではないから、トランプによってアメリカの国力が落ちようが、維持されようが、より発展しようが、世界の中心から脱落しようが、あまり興味はない。世界は常に変革する。昨日の革新が今日は普通の事になる。誰も驚かないよ、という話である。もちろん、もしアメリカ市民だったらトランプには投票しないと思う。

 

だからといって、トランプの二期目が現実味を帯びてきている事に驚愕しないわけではないのだ。もしアメリカ人ならF**kを連発しているはずだ。

 

だが、彼のスタンスは非常にパターン化されているようにも見える。この先の動きを全部言い当てる自信などさらさらないが、行動原則が見えてきたように思える。

 

まず、彼は面と向かって人を罵倒する人ではない。それどころか、会った時はにこやかであるし、よき友人たろうと努めているように見える。これは、もちろんイメージ戦略もあるし、交渉を円滑にするための狡猾さでもあろう。

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この落差はもちろん、その前に何が起きるのかと相手側に疑心暗鬼を生じさせておくから有効なのだ。サプライズというのは予測されていては詰まらない。不安にさせてから、安心させる。これは一種の(ドア・イン・ザ・フェイス)である。

 

人間の心理はあらゆる方向が同じではない。例えば肯定と否定の摩擦係数は異なる。誰でも相手の言っていることを肯定する方が気が楽なのだ。だから、それを効果的にコントロールできれば交渉は楽に進められる。

 

だが、これが複合的になるとそうとも言ってられない。相手に嫌悪感を持っていると、わざと否定したり、わざと肯定したりもする。他に優先する目的がある場合、肯定と否定の摩擦係数は同じに変わる。

 

(フット・イン・ザ・ドア)が小さなYESを繰り返すうちに、気づいたらNOが言えない状況を生み出す交渉術だ。これも肯定の摩擦係数の小ささを利用したものである。

 

トランプが最初にどんな無理難題を吹っ掛けるかをみんな疑心暗鬼して待っている。だから、会ったときの笑顔を見てほっとする。それにでもうYESは引き出しやすくなっている(テンション・リダクション効果)。

 

相手は十分に摩擦が大きい体験をしたわけで(会う前に勝手にシミュレーションで)、だから、実際にあった時は、もう少しくらいのYESならとても受けやすい状態になっている。肝心なのは、明確には否定をさせず、しかしもう否定はしたつもりになってもらう事である。

 

これとは逆に小さな否定を幾つかさせた後に、YESを言わせるテクニックもある。これ以上否定をするのは心苦しいという心理を突いたもので(返報性の原理)と呼ばれる。

 

こういう心理的駆け引きに長けた人は、トランプのやり方を見てピンと来ているだろう。で、そういう連中はアメリカにもごろごろといる。だけど、そういう話はあまり聞かない。もちろん、北朝鮮でも想定しているはずだし、中国にも、ロシアにも、EU、イランだって、そういう技術を持っている人はいる。

 

それでも全員がトランプを厄介な相手だと思っている。この点がアメリカの強みなのだろう。

 

彼のこれまでにない一面は、新しい局面に入る事を全く躊躇しない点だ。アメリカの歴史は詳しく知らないが、彼が初めて実行したこと、歴代政権が開けずおいたドアに手を掛けた事例はたくさんあるのだろう。そういう歴史的伝統は彼の中にはないようだ。

 

速度の点でも画期的だと思う。TPP、核合意などから抜けるのにも躊躇しない。練りに練った戦略という感じがないにも関わらずである。彼は最初にハードルを高くする。そして次にそれよりも低い条件を出す。そういう交渉が得意なように感じる。

 

肉を切らせて骨を断つのか、骨を立たせて肉を奪われているのかは知らない。アメリカという巨人の没落を見てみたいという気もするし、でもその代わりが中国共産党の台頭じゃ、デストピアな気がしないでもない。

 

彼がビジネスマンとして有能かどうかは知らない。大統領を辞めたら沢山の不正が見つかるんじゃないか、という点でゴーンを思い返したりもする。だが、歴史が語る所によれば、えてしてこういう人は不正をしなかったりするのである。アメリカへの忠誠心だけはガチだったりするから面白い。知らないけど。

 

でも、思ったほど、彼は横暴でも暴君ではなかった。ネロが初期の頃には賢帝であった寓話を思い出す。紂王の話も敷衍するなら、メラニアがサビナや妲己じゃなくて本当に良かったよ。

 

彼の課題はとてもワールドワイドである。

  1. 北朝鮮との核廃絶交渉
  2. イランとの中東和平交渉
  3. 中国との技術競争
  4. ロシアの疑惑払拭
  5. NATOにおける軍事費問題
  6. 日米同盟における軍事費問題
  7. TPPに変わる貿易赤字問題
  8. メキシコとの移民政策問題

知らないだけで、本当はもっと重要な事項があるのだろう。

 

そのすべてがコスト(支出)とベネフィット(利益)の問題に集約しているように見えるのも画期的だ。全てアメリカの利益という点に通ずるように動いている。彼は利益を得ている分野を問題視したことは一度もなく、出費に対してのみ敏感である。

 

理由はなんとでも付く。ただこの問題を解決したい。そのためには金がいる。そのことをよく理解しているように見える。議会が頼りにならないなら、別の方法を模索する。俺の財布はお前たち議会だけじゃないもんね。これが彼の切り札だ。

 

「世界を財布にした男、トランプ」という本が出版されそうな気もする。それほど彼との交渉は全て金の話だし、その背後に必ず金の匂いがある。もしイスラエルが、ユダヤ系の人たちが金を持っていなければ、また強固な票田でもなければ、決して大使館を引っ越したりはしなかっただろう。またイラン問題を深刻に対応しはしなかっただろう。もしサウジアラビアが莫大な金を持っていなければカショギ殺害からこれだけ早く興味を失せてはいなかったろう。

 

金の損得を抜きに話をしているのは北朝鮮の問題だけではないか。本当は一番興味のない話かも知れない。実は国防など一番無駄だと思っていても不思議はない。支出ばかりでどんなメリットがあるんだ、という考え方は実に合理的だ。アメリカでは軍隊が社会保障セーフティネットの役割を果たしているので、イラクアフガニスタンから撤退、帰還兵が増加すれば社会問題化するだろうと思っている。

 

これからの一年は、トランプの行動原理は大統領選に向けられる。勝利するために、票を得るための政策が続くという事だ。アメリカへの工場誘致、貿易関税の撤廃など、業界ごとに、世界中の巨大な市場に向けて要求してくるのは当然だ。

 

特に中国との関税障壁が解決しないとき、両国ともそれ以外の市場を開拓しようと躍起になるのは自然であるし、近くにある日本という巨大な市場は、本当ならどのような破壊をしてでも欲しいはずだ。生産地としての植民地ではなく、消費市場としての植民地、という考え方がこれから推進してゆくかも知れない。

 

我々には市場が必要なのだ。本当はそれを育てる農耕牧畜型の市場が健全だと思うが、現在は狩猟型の市場のみ存在する状況である。その奪い合いである。おそらく、紀元前12000年頃の世界である。