腹立たしいことに、この予告を見て少しばかりの期待をしてしまった。
もちろん、幾つもの異議申し立てたのシーンはある。いったいどういう理屈でこうなるのか、という疑問である。
ゴジラは予告編のくせに、人物のアップが多い。邦画の人間ドラマなど大したはずはない。だから、人間が多く出てくるのは悪い予兆である。
そもそも論でいえば、現在の戦車がどれだけ強力な砲を搭載しているのかという話であって、戦車の装甲がどれだけ強化されてきたと思っているのか、という話である。たかが蛋白質の固まりであるゴジラがどれほど頑張っても金属の固まりに勝てるはずがないのである。これは電磁気学の当然の帰結である。
そのような戦車でさえ現代の空からの攻撃の前では子供に踏み潰される蟻の如しである。F-2支援戦闘機が搭載するミサイルの威力がいかほどと想定しているのか。
陸海空のうち、ゴジラとまともに戦って負けそうなのは護衛艦くらいなもんである。
ゴジラなぞ所詮は生物である。有機物の塊である。有機物、つまり炭素を中心とした高分子であるペプチド結合である。現代兵器の直撃に耐えられるはずがないのである。もちろん、そんな話をすれば、強力な放射線を吐くゴジラがどのような生態でそれを可能しているのか、という疑問に行き着く。
ゴジラといえどもDNAを持つ。強力な放射線は細胞内の原子分子と当たって電子をはじき出す。これがフリーラジカルや活性酸素となって結合先を見つけようと周囲の分子と自由に反応する。相手がDNAならDNAは損傷する。これが生物に有害な理由だから、放射線によってDNAが損傷しない仕組みか、修復する仕組みを持っている必要がある。
邦画製作者はそろいも揃って低能ぞろいであるから、科学的合理性については、追及はおろか、そもそも発想がない。ハリウッドはその点でずっと進んでおり、出鱈目であろうが、物理学的根拠を与えようと頑張っている。
それが映画の説得力に寄与し、それがひいては映像に対するインスピレーションを生み出すと知っているようだ。ハリウッドの人たちが重力がうんたらと屁理屈を考えている間に、日本のそれはマントを羽織れば飛べるんだのまま止まっている。何のためにこの国に京都大学があると思っているのか(東京大学は官僚育成のための大学であるから不適切)、ゴジラは怪獣だから放射能を吐けるのではないのである。
「10式の直撃、効きません!」「何!」そんなセリフで終わらせられて溜まるか。あれだけの破壊力が効かないのにも何等かの理由が必要である。それが作中に出てこないのならもう辟易と白けるしかないのである。
なにを設定するにしても、日本ではゴジラセルだから、で終わってしまう。なんか知らないけど架空のすごい細胞があるんだ。パトレイバーのニシワキセルはがん細胞由来という設定で説得力を生もうとしていた。
元来、ゴジラは放射能を吐くのだが、そもそも放射能を吐いた所で、ビルは爆発しない。それはチェルノブイリでもそうであったし、福島第一発電所でもそうである。
するとゴジラが吐いているのは放射能だから爆発するのではなくて、放射能を含んだ熱線でなければならない。よって放射能は何らかの副産物と考える方が妥当である。
放射能が出る以上、そこには核分裂か核融合があった方がいい。核融合のためには高温高圧力が必要なのでとりあえずゴジラでは核分裂としよう(という設定にすれば、次に核融合する怪獣が登場させられるからである)。
すると熱線は原子核が分裂するときのエネルギーが使われたものである。ならば、この先の問題は次の点に集約する。
残念ながら有機物は熱に弱い、特にタンパク質は熱変性を起こす。ゴジラの口からぶわーと吐き出すものが、体の中で生成されているとすれば、体内が熱線にさらされる。映像を見る限り、それは数百度というオーダーではない。ジルコニウム合金は2000度で溶ける。太陽の表面温度は5000度である(内部は1500万度)。
ゴジラのそれは吐けば即爆発するから、数千度はあるだろう。体の中に数千度もする熱源があるというのはどう考えても無理がある。そんな熱源を吐けば喉から口中まで大やけどするに違いない。
この熱線は生物がどうにかできるレベルではない。火を噴く人間だって、発火するのが口の外だから平気なのだ。するとゴジラもそうであってしかるべきと考えるのが妥当だ。
ゴジラは口のすぐ近くで核分裂を起こし、その熱を放射している。そのためには、体内で濃縮ウランを生成できること。それを口から吐き出し、中性子を当てて核分裂を起こせること。その熱量を口からの吐息で任意の方向に送れること。これが妥当な結論になるか。
濃縮ウランの生成は、ゴジラは体内に取り込んだ海水からゴジラセルのトリウムポンプを使って、細胞中にトリウムを蓄積する仕組みがある。これによって普段海中にいる理由も明白だ。海中で不足しがちなトリウムを常に補充しているのだ。
トリウムポンプを使って、トリウムをどんどん濃縮する細胞をゴジラは持っている。それが喉の近くにあって、その濃縮したトリウムを使って核分裂を起こしている。
ここまでは簡単な話で、問題は、これをどうやって核兵器なみの核分裂を起こすかである。オスロの天然原子炉のように水を使えば核分裂は起こせるが、核兵器のように一気に爆発的反応を起こすには何らかの仕組みが必要だ。
そのためにゴジラは高濃縮したトリウムを口前に高速に吐き出してぶち合てている。口中の6つの袋から高速(音速も超えるほどの)勢いで口の前で充てれば核分裂を起こす。超高速でぶつけて高圧力と高温を生み反応を促進するわけである。
それだけ強力に吐き出す能力があるから、ゴジラは目の前で起きた核分裂に対してその熱量を浴びずに済む。
口から高速に吐き出したものは、吐き出された方向に向かって核反応をしながら飛んでゆく。もちろん莫大な放射線も放出されるのであるが、ゴジラの細胞は鉛を多く含んでいて、細胞レベルで鉛の壁を持っていると考える。そうすることで、放射線からの被害を低減し、もちろん傷ついた細胞を修復する機能も強い。
吐き出された物質は、核分裂しながら飛んで行く。その熱量は上にも上がろうとするが、あまりに高速なために、その反応は広がりながら、吐き出された方向で何かと当たるまで進む。
よってゴジラは決してガスを吐き出しているわけではない。吐き出した物質が核分裂によって熱を生み出す。この熱が空気を熱膨張させる。これがゴジラが起こす爆発の原理である。
この吐き出す強さを使えば、仮に核物質ではなくても十分に強力だろう。息を吐き出すだけで竜巻も起こせるし、海中でやれば津波だって起こせる。
米ゴジラでは、放射能は繁殖のために放射能が必要とされていたが、それが科学的かどうかよりも、何らかの説明付けしようと試みているのが重要なのである。
架空の物語である以上、完全な整合性などあり得ない。また、それが作品の面白さを決定付けるわけでもない。だが、それでも何らかの説明を試みる努力が作品の幅を広げ、新しい面白さを発見できる可能性を持っている。
いずれにしろ、現在の自衛隊の兵力があれば、宇宙人の侵略ならいざ知らず、未確認なたった一匹の爬虫類ごとき、退治できないはずがない。これが信念である。
付け加えて今回のゴジラは体の奥の方がまるで溶岩のように赤々と輝いている。これが光の反射ではなく、体の中から発光しているのは自明である。
蛍やクラゲのような低温発光(効率が抜群にいい)ではないことも色から明らかだ。あれは溶岩と同じだからだいたい1000度くらいのつもりであろう。そういう熱を持っているというのは、果たしてどういう仕組みかは分からない。ましてそれがゴジラという生物にとってどのような利点を持つのかも。
だが、これはなかなかの良いイメージなのである。
エネルギーの観点で言えば、熱がもっとも使いにくいエネルギーである。よって熱のエントロピーが大きいわけのである。赤々と熱を放出しているという事は、何か効率の悪いことをしていると考えるべきだろう。
古生代の生物だって効率を追求していたはずである。生物にとって非効率は進化において極めて不利である。よってそれはゴジラがほとんど絶滅状態であることの理由付けになる。
と、そのような理屈をつけたとしても、兎に角、これはかっこいい。その造形は必ず新しいファンを獲得するだろう。科学的合理性など後回しにしても、この造形力だけでもう十分に素晴らしいのである。これを別の言葉でいえば中二病である。
この中二病がフイルムで動き出せば更にかっこよくなるのは当然である。このカッコよさだけで少なくとも15分間は世界の人々を魅了できるだろう。
だから問題は残りの1時間半である。陳腐な人間ドラマが時間稼ぎとして入るのだろう。ゴジラという災害にどう立ち向かうのか、考えの対立する主人公たち、無能な官邸、そして、出世も捨てて困難と対峙する官僚、命令違反する自衛官、学会から追放された科学者、荒唐無稽な解決策、それで面白くなるか、頭が痛くなるか。
いざ勝負!