シャアの「若さゆえの過ち」とは何だったのか…?「アニメ」のすごさをもっと深く考察し、語ってみよう

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 ※ 岡田斗司夫という人には厚顔という感想しかない。そこは羨ましくもある。

 

さて、軍に属したことも、作戦行動を指揮したこともないが、ガンダムの第一話はサイド7への偵察時に起きた突発的な戦闘だったと思う。

 

偵察に20mもあるザクを使うのがそもそもどうなのか、という疑問もないではないが、それは第一話の性質上、致し方あるまい。 

ドレン「はい、シャア少佐。しかし、あんな僻地のサイドに連邦のV作戦の基地があるんでしょうか?」
シャア「あるよ。我々のザク・モビルスーツより優れたモビルスーツを開発しているかも知れんぞ」

 

暗号文による第一報。
シャア「見ろ、私の予測した通りだ」
ドレン「で、では、連邦軍モビルスーツを?」
シャア「開発に成功したと見るのが正しいな」

 

ジーンが攻撃を進言する。
ジーン「叩くなら今しかありません」
デニム「我々は偵察が任務だ」
ジーン「しかし、敵のモビルスーツがあの戦艦に載ったら」

 

制止を振り切って戦闘開始。
デニム「おお。ジーン、何をする?」
ジーン「シャア少佐だって、戦場の戦いで勝って出世したんだ」
ジーン「フン、手柄を立てちまえばこっちのもんよ」

 

攻撃開始の報を受ける。
シャア「デニム曹長は?」
スレンダー「は、ジーンを援護する為、後方から出ました」
シャア「連邦軍モビルスーツは存在するのだな?」
スレンダー「はい」
シャア「スレンダー、お前は撮れるだけの写真を撮って、危険になったら引き上げろ」
スレンダー「はい」
ドレン「どうします?」
シャア「デニムに新兵が押えられんとはな。私が出るしかないかもしれん、船をサイド7に近づけろ」

 

二機のザクはアムロによって迎撃、破壊される。
ザクを二機失った報告をうけ、シャアはうそぶく。
シャア「スレンダーは?」
ドレン「サイド7を脱出して本艦に向かっております」
シャア「認めたくないものだな。自分自身の、若さ故の過ちというものを」

  機動戦士ガンダム全セリフ集_第01話「ガンダム大地に立つ!!」 - 機動戦士ガンダム全セリフ集 より

 

偵察部隊が出会い頭に戦闘に巻き込まれる事はよくある話である。また敵の隙を突いて攻撃に転じることもあるだろう。戦場は臨機応変が常である。

 

秋山支隊というとどうしてもクシャナの第3軍(ナウシカ)をイメージしてしまうのだが、永沼挺進隊が敵の奥深くまで侵入し後方撹乱を実行したのも偵察行動の一種であろう。

 

だが今回は情報収集が主任務である。敵戦力の分析、技術レベルを把握するのが目的である。開発中の新兵器を破壊するのは、例えば、現在の北朝鮮に対するアメリカの戦略とであろう。イスラエルはイランの核施設を破壊した。

 

今回のケースはそれとは異なるのは明らかだと思う。作戦がV作戦に関する情報収集であるし、シャアだからサイド7まで追尾できたのである。偵察途上での武力行使は、やむに已まれない状況でしか許されないし、それは自衛のためである。もし敵が量産間近なら一台二台を破壊しても仕方がない。

 

つまり「あれが戦艦に搭載されたら大変なことになります」というジーンのセリフは完全にナンセンスであり、シャアがそんなことを考えていたはずがないのである。

 

可能なら設計図や部品も入手したいが、それもこれも最終的には連邦の生産工場を破壊するためである。だからシャアはジャブローの奥深くまで侵入したのである。左遷されてもそのことを良く自覚していた。地上に降りた後、彼の主任務は連邦の生産拠点を探索することである、と考えるのが妥当であろう。

 

通常、軍隊では上官の命令もなく勝手に動けば、軍法会議である。いかに愚鈍な上官の命令であっても、これを無視することは許されない。上官以外の命令を受けることも許されない。軍隊とは厳密に結びついた命令系統のことだから、もし無能な上官がいても、それは軍組織の問題であって、作戦上の問題ではない。

 

与えられた権限を越えることを誰にとっても許されないのである。もちろん、かつての日本陸軍にはこれを超えて戦線を拡大した連中がたくさんいた。だが、内閣には背いたが、軍紀には何ひとつ違反していないというのが彼らの言い分である。

 

石原莞爾のような男をさっさと銃殺刑にでもしておけばまた違った歴史があったかも知れない。この終末思想を妄想する病人が、それでも関東軍参謀として満州国を設立し、戦後まで生きながらえたのは単に幸運だっただけである。しかも、その支持者がカスばかりという体たらくである。彼を銃殺にできなかった。当時の日本陸軍は極めて身内には優しい組織だったからである。

 

ジーンの働きは、命令違反とも言えるが、デニムがそれを強く止めた形跡がない。これはデニムが現場の判断でそれを是としたと言えなくもない。

 

ではシャアはどこまで期待していたのか。例えば写真撮影だけならザクを持っていく必要はない。サイド7に軍事施設があるという認識はなかったので、偵察だけにならザクが不要なのは猶更である。

 

だから、ザクを持って行ったのは、可能なら部品なり機体なりを分捕ってくることも想定していたと思われる。そこでザクで行かせた理由を勘違いしても仕方がない。

 

ジーンは敵施設を破壊しようとした。シャアの意図を完全に理解していないのみならず、デニムさえも理解していなかった証左と言えよう。

 

ここでシャアは作戦を伝える時に、その意図を伝え損なった可能性がある。いまさら一台二台を破壊することが戦局に影響するなどありえない。自分にとっての至極当然の話を説明しなけらば分からなかったのか、という後悔であろうか。

 

偵察だから新兵を入れた、それは極めて安全と考えたからである。だが、その新兵であるジーンが突出してしまった。戦死までさせてしまった。彼が功を焦ったからであるらしい。自分を真似しようとしていたらしいのだ。

 

ここまで新兵教育が劣化してしまったのか。そう思ったかも知れない。軍は大人の遠足ではないぞ、と言いたかったかも知れない。ジオン全体が次第に衰えつつある、そういう理解をシャアがしていなかったとも思えない。

 

V作戦という存在が連邦にまだ反撃する意志があることを示している。それを支える人材も体制も崩れていない。

 

自分が行っていればもっと良い結果が得られたのは確かだ。だが、全ての作戦に自分が参加しなければならないのか。部下の面倒を全部自分が見なければならないのか。そんな事できるはずもないではないか。そんな当たり前のことで後悔するはずがない。

 

シャアがドレンの前でうそぶく。年上のドレンに気を遣わなかったはずもない。そしてドレンもまたシャアをきちんと立てる優秀な士官であることも疑いようがない。

 

するとこのセリフは、今回の失敗をだれのせいにもしない。すべて自分の過ちとして処理するというシャアなりの宣言という事になる。

 

どれれだけ考えても自分に瑕疵などないぞ、もう少し説明しなければならなかったかも知れないが、そこまで自分に求められても困る。

 

ジーンが突出したのはどこかで俺を嘗め切っていたからだろう。下士官から若いという理由で嘗められていたとしても、それを俺の責任とされては困る。俺がもう少し年配者だったら、もっと重しとして厳しく接していたらこの作戦は上手くいっただろうか。

 

そこまで考えると、そもそもこの作戦を実施するにあたって、シャアが直接、全員に作戦意図を説明しただろうか、という疑問がよぎる。一般的な軍隊でいえばそんな事はないように思える。シャアは偵察を命じた。だが人選であれ、実際の具体的な行動であれ、それは部下が立案して実行したに違いない。

 

そして、生身ではなくザクで侵入することを、それがあらゆる状況に対応できることから許可した、のはシャアであると言えるだろう。

 

ジーンも、デニムも、何か罰を問う気などない、作戦立案をした者をどうこうする気もない。すべては自分の若さゆえの過ちだ。さっさと二階級特進でも進言してやってくれ。

 

だから大気圏でホワイトベースに攻撃をかけるとき、彼自身が作戦について詳細に説明したのではないか。