「ムーミン谷は架空の場所であり、フィンランドが舞台と明示されていない」 阪大スウェーデン語研究室がセンター地理の出題に疑問

news.careerconnection.jp

 

www.toshin.com

 

 

センター試験地理B
第5問、問4

ヨシエさんは、3か国の街を散策して、言語の違いに気づいた。そして、3か国の童話をモチーフにしたアニメーションが日本のテレビで放送されていたことを知り、3か国の文化の共通性と言語の違いを調べた。次の図5中のタとチはノルウェーフィンランドを舞台にしたアニメーション、AとBはノルウェー語とフィンランド語のいずれかを示したものである。フィンランドに関するアニメーションと言語との正しい組み合わせを、下の①~④のうちから一つを選べ。

 

スウェーデンを舞台にしたアニメーション
ニルスの不思議な旅(ガチョウにのっている小人ニルス之図)
スウェーデン
いくらですか?
Vad Kostar det?(ヴァッ コスタ デッ?)


アニメーション

タ ムーミン(カバ状の動物二匹図)

チ 小さなバイキングビッゲ(船と子供の海賊/交易商之図)

言語

A いくらですか?
Hua Koster det?(ヴァ コステル デ?)
(帽子かぶっている子供とパン之図)

B いくらですか?
Paljonko se maksaa?(パリヨンセ セ マクサー?)
(トナカイ状の鹿と財布之図) 


  1. タA
  2. タB
  3. チA
  4. チB

 

著者

 

この問題は著者の出身地からは解けない。また解けたとしてもそれは要求されるような知識ではない。


この設問には北欧三か国の地図が示されている。半島の外側、北海沿いにノルウェーがあり、内海であるバルト海側にスウェーデン、半島の北側から大陸にかけてフィンランドが位置している。

 

この問題をよく見れば、集められる情報は、バイキングとトナカイ、言語の類似性(スウェーデン語とAは類似する)くらいである。

 

ノルウェーは鮭の養殖で有名だが、これも必須知識として要求されていない。トナカイといえばサンタクロースだが、サンタクロースといえばフィンランドである。よってトナカイもフィンランドであろうはこの問題が要求する知識(または推論)と言える。

 

さて、スウェーデンは真ん中に位置するので、この設問は、その両端を当てるゲームである。そのためのヒントがバイキングとトナカイ。

 

バイキングがどのあたりに住んでいるか。それを知るためには「ヴィンランド・サガ」を読んでおく必要があるが、さて、wikipedia によればヴィンランドとは 北アメリカの地名である。何故、北アメリカか?それはヴァイキングのレイフ・エリクソンという人がそう名付けたからだ。そういう伝説がある。アイスランド生まれのレイフが入植したという伝承である。

 

カバといい海賊といい作品は架空のものであり、所在地は確実ではない。よって、これらの作品の知識も必須ではない。なぜなら役に立たないからだ。

 

ムーミンから答えを導くのは不可能、バイキングビッケから答えを導くのも不可能。バイキングもよく勉強している子ならば「その時代にスカンディナヴィア半島、バルト海沿岸に住んでいた人々全体」という定義も知っているであろうから、問題を解くには不適切。どれか一国を示すとは言いきれないからだ。

 

ヴァイキングの代名詞といえばノルウェーである、とされている。これは世間に流布する狭義の定義であるが、厳密には正しいとは言えない。倭寇を日本人しかいないというようなものだ。

 

だが、仕方があるまい。受験生に問題の是非を議論する時間はない。そこで、不本意ながらも、バイキング=ノルウェー、トナカイ=フィンランドと仮定する事で、タとBの組み合わせが答えとして得られる。

 

この設問が良問かといえば、そもそも入試試験に良問も獄門もありはしない。よい問題とは受験生を標準正規分布にするものである。問題の中に解答を導くためのヒントがあり、同時になんらヒントにならない情報も紛れ込ませている。ヒントのようでヒントになっていないもの、思い込みや誤解を誘導するヒントが散りばめられている。

 

この問題ではムーミンもビッケも意味を持たない。言語の類似性から推測はできるが、歴史における例外は日常茶飯事とも言えるので絶対ではない。半島の中の方が類似するという想定がその通りであるとは断言できないのである。

 

それでも、この問題では、バイキングとトナカイが第一ヒントになっており、言語の類似性が第二ヒントになっている。ノルウェースウェーデンは北欧語だが、フィンランドはウラル語系で異なる。この知識が必須で求められるのに妥当かどうかは知らない。

 

いずれにしろ、答えは消去法でしか求まらないであろう。だが、問にフィンランドを舞台にしたアニメーションと明記しているのが問題なのである。こう明記した以上、ムーミンは本当にフィンランドを舞台にした作品であるか、という事が最重要になる。

 

消去法で残った答えが、どれほど奇妙であっても、それが答えだ。

Once you eliminate the impossible, whatever remains, no matter how improbable, must be the truth.

 

とはいえ、論理学(implication)では、命題Pが偽ならば、すべて真である。前提に間違いがあれば、組み合わせは全て正しいと言えてしまう。

 

設問でムーミンフィンランドノルウェーを舞台にしていると明記している。もちろん、架空の動物がすむ架空のムーミン村がフィンランドにあるはずがない。それは、魔女の宅急便がイタリアを舞台にしている、とか、紅の豚が地中海を舞台にしているというようなものだ。

 

それでも、受験生のほとんどはニルスもビッケも知らないだろうがムーミンは知っているだろう。ムーミンはカバではないし、ムーミン谷は架空の場所と知っているはずだ。するとムーミンの舞台がフィンランドであると証明すべきは設問作成者や承認者にあると言えるだろう。

 

ムーミンの作者はフィンランドの人だし、その着想にもフィンランドが強く影響していると考えられる。また、ムーミンの所有権を争えばフィンランドが獲得するのは確実である。

 

よって、核心は、”舞台”と明記したのが手落ちなのである。関連が強い、などと書いておけば良かった。優秀な官僚ならこういうミスは絶対にやらない。

 

さて、社会の選択には世界史A、B、日本史A,B、地理A,Bがある。どれも暗記主体の試験だから、どれを選択するかは個々人の好き嫌いに任せられる。日本史は、自分の国なので有利に見えるが、よく知られている分だけに問題は重箱の隅になるはずだ。

 

世界史と地理はどちらが簡単かというと恐らく暗記量に違いはないと思われる。 

faq.benesse.co.jp

 

上記サイトによれば各コースの違いは次のようになる。

  1. 日本史A…明治以降の日本の近現代史を深く
  2. 日本史B…原始・古代から現代までを広く浅く
  3. 世界史A…近・現代の歴史を深く
  4. 世界史B…先史・古代から現代までを広く浅く
  5. 地理A…現代世界の地理的諸課題を深く
  6. 地理B…自然環境や産業などの分野別、地域別に広く浅く

 

これは浅く広く、狭く深くに二分類されている事になる。受験的に言えば、広く有名な知識か、狭く細かい知識かの違いだから、暗記量には顕著な差はないだろう。話の流れで捉えるならば、Aの方が把握しやすそうだ。一方で curious な性格ならば、Bの方が適正かも知れない。

 

試験は満点を取るのが目的ではない。合格ラインに達する点数をいかに最小効率で取得するかのゲームである。受験生各人が自分の得意不得意、効率性(嫌いでも得意かも知れない)、恋愛や人生など他の大問題の余暇で遣り繰りしなければならないので大変である。

 

そのために必要なのが戦略と計画であって、これを個人で立案するのはまだ困難な年代であろう。それができるなら大学受験など必要ない。だがそういう人が有利なのが受験なので、できない人はそれだけハンデをかかえ大変である。

 

そこでいろんな人が登場する。この問題でも、これを悪問と主張する人も、良問と主張する人も登場する。受験がビジネスにしか見えない人には、これは好機であろう。どれくらい説得力のある主張ができるかが、分かれ道である。

 

さて、若い時分の記憶力は当人が思ってるよりも遥かに優れていて、それを当人が思い知るのは30年後なので、仕方ないから記録力が衰えた大人が強制して知識を詰め込むのである。受験はそういうゲームである。