桜木建二が龍山高校を立て直す「ドラゴン桜2」モーニングで

natalie.mu

 

三田紀房のことは「ドラゴン桜」で初めて知ったが、話の作り方が実に巧い。それ以前の作品に「クロカン」や「甲子園へ行こう!」などがあるが、それらも読んでみようかと思わせる作家である。

 

絵は下手だが、読みやすい。コマ割りが上手いのだろう。さらさら読める。作品の基本は、下克上と言うか成り上がりと言うか、とにかく這い上がる系がコンセプトである。

 

だから、弱小、落ちぶれ、素人、門外漢から作品は始まり、そこからどうのし上がるかが面白さの肝になる。

 

それを成り立たせる為には、どうしても情報の書き換えが必要である。常に常識の盲点を疑う、みたいな所がある。そこに切り込むためには、別の視点を持ち込まざるえない。この視点がこの人の作家性といえる。

 

情報の書き換えは、いろんな作品の基本であるが、その顕著な成功例に「美味しんぼ」がある。食事という本来はどうでもいい事を、あそこまでこだわらせた話の作り方は見事である。時代を作った作品のひとつである。この作品を味の素は業務妨害と思ったであろう。だが、そのおかげで旨味への理解が深まり、結果的には良い状況を生んだ。

 

そのような作品でも、今読み返してみたら、情報の出所を知っているので、作品の構造が如何にもという感じで、そこに人情を絡めてきて辟易とする事もある。

 

そこが教科書と違う点だ。教科書は何もない所に、こうですよ、という知識を提示する。しかし、優れた作品は、こう思っているでしょう?でもこうするとこうなるよね?ね、思った通りにはなっていないでしょう。なぜだと思う?実は本当はこうだからよ、という構成にしている。

  1. 従来の考え方の提示
  2. 矛盾、誤解、失敗の発生
  3. 原因の追究
  4. 新しい情報による成功

 

これは基本的に成功譚(ときおり失敗のアレンジもある)である。「美味しんぼ」は今さら読んでも陳腐だが面白い。少なくとも、暇つぶしには十分な娯楽として通用する。これは作品の基本構成が優れているからだ。

 

三田紀房の作品も基本的には同じ構造である。そのアレンジが上手なのだ。独特の絵柄は、良く練られたパターン化した登場人物を分かり易く提示する。まずは対立がある。

 

敵味方を単純に示すのは作品の基本である。その対立に対して、本人が自慢したら嫌味になるので、必ず主人公を持ち上げるための要員が配置される。更に人間性を強めるために、恋愛関係だの、家族関係だのを絡めることもある。

 

こうして人物関係を複雑にするが、いずれも、主人公の情熱が作品を引っ張る鍵である。それをビジネスの成功だとか、金銭だとかプライドみたいな卑近なもので公言させているのもこの作家の特徴だ。

 

こうする事によって、人道だの道徳だのという面倒臭いものから解放される。かつ、それが、結果的には道徳的であったり、人道的な結果を得られると、読者に強い正のカタルシスを与える。この安心感が作品の印象を強化する。

 

いま面白いのは「アルキメデスの大戦」であるが、これは架空の戦前史であって、戦艦大和の建造を妨害し、その予算を航空兵力に注入するために奮戦する物語になっている。

 

もちろん、話がとんとん拍子で進んだら面白くないので、いろんな事件が起きたり、敵対する勢力、中立する勢力が配置される。それらの関係性の変遷が作品の流れを決める。本作品はとにかく新刊の発行が早い。面白いのだが、一巻当たりの内容が少ない。

 

漫画は、基本的にセザンヌゴッホたちのような個人的な表現の延長線上にあるように思われる。だが、実は、工業デザインの方に近いかも知れない。浮世絵も作家性が強く出るがその製造過程は工業に近いであろう。漫画という媒体にはこのどれをも飲み込めるだけのキャパシティーがある。

 

家内制工業のように、トーンも使わずひとりで描く作家もいれば、フォードの工場よろしく、オートメーション化した製造も可能である。分業制、工房として作家性を押し出す人もたくさんいる。三田紀房はどちらかといえば、後者であろう。

 

この作家は、箇条書きすれば10くらいで済むものが、なぜか数巻の漫画となって、かつ読んで面白く仕上げる。だから基本的には面白いのだが、21巻まで続いたインベスターZは全く面白いと思わなかった。別に株やお金の話が嫌いなわけではなかったのに。

 

だからドラゴン桜2を出してきたとき、どうしてかなとも思った。基本的に2を作る場合は、ネタ切れとか金に困っているとか何かネガティブな理由があるはずだ。でも一話目は結構読めた。

 

すると、この作品には、工房として作品を作る練習台の意味付けがされていた。

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漫画の絵を描く作業をすべてデザイン会社に外注

している。

「僕はもう絵は描きません。シナリオを作って、構成をして、終わり。作画は全部おまかせする。手っ取り早く言えば、漫画界のアップルみたいなものですよ。アップルは設計だけ自前でやっていて、製造は海外の工場に任せているじゃないですか。それと同じことです」

 

By name だが、実は看板方式でやる。評価の定まったドラゴン桜は制御しやすい。インタビューによれば、「2020年の教育改革」がテーマだそうだ。

 

情報の上書き漫画は結論ありきで作られる事が多い。最初からある目論見でプロットを作るのだが、作っている間に考え方が変わる事もある。「美味しんぼ」は311によって賛否があるとはいえ、大きな変遷をした。そのため描けなくなったと言ってもよいだろう。そういう事態になれば、作品はいざ知らず面白くなる。