銀河鉄道は宮沢賢治から九州から上京した少年のロマンへと受け継がれた。銀河に張り巡らされた鉄道網という発想には、奇妙に現在と未来がうまく交差する世界観を感じる。
新幹線は1964年に開業。C62引退が1973年。ボイジャー1号の打ち上げ1977年、999は遠い未来にありながら、そこで展開される物語は、どれも時代性が現在のように見える。だが、作品で展開される物語は単なる時代性を超えて哲学であったり思索であったり、寓話的なのである。現在のイソップという感じがする。
何度も思い返すのが「霧の葬送惑星」。暇を持て余した人々の遊び。折に触れ、目を閉じては思い出す。ここにはとても深い何かがある、そういう感慨が拭えない作品である。
と書きながらも、松本零士はそんなに読んだ方ではない。男おいどんもクイーンエメラルダスも途中しか読んでいない。ハーロックだけは最後まで読んだが、途中で終わりやがった。
しかし、スターシステムとしての銀河鉄道999という舞台は、様々なものを飲み込んでブラックホールのように存在する。なんたる世界観、この作品のフレームワークには、999だけではなく、ハーロックもエメラルダスも存在する。ヤマトさえ飲み込んでいる。
それらの中で最も好きなのは惑星ヘビーメルダーに墜落したデスシャドウ号だと思う。どういうわけかトチローという存在がどの作品でも重要なのである。たとえ端役であっても、存在に意味がある。それぞれの作品は独立して人気を獲得するが、どの作品にも登場しなければならない理由があった。
トチローというエンジニアにして冒険者。主役ではないが、すべての作品をひとつに束ねている人物。この謎の多い人物について、もし可能なら、なんらかのエピソードを作ってみたい、そう思わせるキャラクター。どんなエピソードでもこのキャラクターならば受け入れるだろうという気がする。トチローとは男おいどんから始まるすべての作品に存在する人物である。つまり松本零士の化身である。
作品世界ではアルカディア号を設計したのはトチローである。つまり松本零士なのである。戦士の銃が与えられた人物はトチローの友である。つまり松本零士の友なのである。といった塩梅に。
メーテルを中心に据えて、トチローが様々なキャラクターを結びつけるという構造がある。たとえトチローが消えても、戦士の銃というキーワードで世界を結びつける。そして銀河鉄道が走る限り、この世界観は失われない。
とは言うものの、新しい銀河鉄道はどのように描かれるのだろう。おとめ座銀河団の全貌と比べると銀河鉄道はまだ田舎の銀河鉄道である。例えるなら、地球に初めて敷かれたイギリスだけを走る列車のようなものだ。
これを更に拡張するというロマンもあるが、もちろん、空間的な広がりをすれば良いという物語ではない。例えば、新幹線を月まで敷けば、384,400 kmを54日(1281h)で到着する。これだって十分な銀河鉄道であろう。
鉄道が舞台となる作品には他に「マリンエクスプレス」がある。深海と鉄道という組み合わせもロマンであって、バチスカーフ好きにはたまらない魅力である。東京ロサンゼルス間は8,806 kmなので新幹線なら29時間で到着する。海嶺越えとか超深海深度走行とか楽しい話がたくさん出来そうだ。甲鉄城のカバネリはスチームパンクのロマンである。
残念なのは蒸気機関で宇宙を飛ぶ船はまだ誰も作っていないことだ。スチームパンクのSFはどうすれば成立するのだろうか。第二宇宙速度(11km/s)をプロペラで生み出すのは不可能だが、さてどう蒸気機関で実現したものか。という事で軌道エレベーターならちょっとはありかもね、と思う。で、肝心なのは宇宙船である。蒸気機関で発電する宇宙船、駆動はソーラー電力セイルとイオンエンジンという事にすれば、イメージは帆船だろう。
帆船が宇宙を飛び交うなら、宇宙鉄道も可能かも知れない(太陽系限定だが)。999でも宇宙空間に線路は描いていないが、線路がないのに鉄道とはこれ如何に。という疑問を解決するためのメカニズムが、筒状の形状であろう。列車という形ならば、線路がなくても、固定軌道を走行するという設定さえあれば、例えば、地球、月、火星の間に宇宙ステーションがあって、それらを結ぶ定期路線を走行(航路で航海はだめ)すれば可能だろう(つまり呼び名でなんとかなる)。
こう考えると999という銀河鉄道とアルカディア号などの宇宙船が共存する世界観が魅力のコアと思えてくる。船と鉄道という比較でいえば、あと足りないのは航空機と車であって、その点では999の世界観は19世紀のそれである。
するとアルカディア号には羽があるんだけど、あれをもって航空機と見做す事は出来ない。すると、あの翼は翼に例えるよりもアウトリガーとか外輪船の発展形ではないか、という気がしてくるわけである。
19世紀的世界観とスチームパンクは相性がいい。それを宇宙でやった、海と陸を宇宙という空間でハイブリッドして結合して併存させたという点が斬新だったのだろう。
ともあれ、宇宙戦艦のひとつの類型を松本零士が発表したから、我々にはスタートレックともスターウォーズとも相いれない世界観を持てたのである。
このような世界観が日本のアニメーションにはたくさんある。メジャーなものだけでも、ガンダムの宇宙世紀、ダンバインのバイストンウェル、マジンガーzの光子力、今ならタツノコのヒューマン型ヒーローなどなどなおなどなど。つまり、待ってろ、アベンジャーズ、という気分なのだ。