戦車にシャンパン、道路にも命名!?偉大な指導者チャーチルってどんな人?

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ナチスの野望を潰えさせたのは、もちろん、チャーチルの功績ではない。イギリスは虫の息であったし、アメリカからの援助はあったとはいえ、鼓舞だけは乗り切ったようなものだ。だがイギリスはガッツだけで最後まで対抗したわけではない。近代戦にガッツだけで乗り込めばどのような結果を得るかを戦史で示したのは我らが日本陸海軍であって、イギリス陸海空軍ではない。

 

イギリスにはアメリカがいた。もしアメリカが参戦しなければどうなっていたか。これは仮想戦記でも最も興味深いシナリオの一つであろう。日本武尊だの、後世世界に転生するとか便利な設定がない限り、イギリスがドイツに敗北するのは明らかである。

 

もしアメリカが参戦しなければ、欧州でドイツに対抗しうる勢力はソビエト陸軍しか残っておらず、それは国境をどこかに線引きして和平するに決まっている。スターリンはドイツと対抗するためにイギリスとも手を組んだのであって、イギリスを助けるために戦ったわけではない。

 

ではヨーロッパがドイツ帝国に支配されたのち世界史はどうなるのであろうか。アメリカ本土までがドイツや日本に占領される高い城の男のシナリオは考えにくい。太平洋や大西洋を超えてアメリカに勝てる軍隊を送るのは不可能であろう。

 

ヒットラーは何を考えてヨーロッパ中に軍隊を送ったのか。恐らく何も考えていなかった、それを正しく見抜いたのがチャーチルの慧眼であったろうか。児戯にも等しい夢想のために何十万ものドイツ人を動員しやがった。そう思っていたのではないか。

 

日本海軍の士官がマインカンプを読んで感銘したと言う。あの本では日本はサル扱いだぞと言っても、そんなのどこにも書いてないと反論する。日本語訳にそんなのを載せる出版社があるか、と井上成美が指摘したとかしなかったとか。

 

だからマインカンプを読めばヒットラーのことが分かる、と考えるのは短絡なのであろう。おそらく読まなくとも、そこに書いてあるのは空虚で陳腐で通俗的な内容に違いない、と確信できる。右翼的発言というものは得てしてそういうものであって、その点は左翼的発言とそう変わるものではない。

 

チャーチルという人がとても開明的で偏見のない人であったかと言えばそんなはずもない。彼もきちんと19世紀的な偏見や優越感、劣等感を持った人であった。世界に対する認識も、英国に対する思いの深さもそうであった。

 

だがヒットラーよりもチャーチルの方がずっと戦争をよく知っていた。これが微妙に戦争の行く先を変えたのではないか。もしおれがドイツにおればイギリスなど征服するのに造作もない、とチャーチルが言ったとしても驚かない。そう思った夜もあったのではないか、と真面目に思う。イギリスが生き延びたのはひとつには幸運があった。

 

ヨーロッパ戦線を決定付けたのは、つまりドイツの敗北、英米の勝利、そして戦後の冷戦状態を歴史に刻んだのは、日本であった。そのためだけに日本がいた、と書いても誇張でもなければ、比喩でもあるまい。もし日米が開戦しなければ、アメリカがドイツと戦争したかは怪しい。参戦したとしてももっと悪い状況であったろう。

 

アメリカは日本など眼中になかったがチャーチルも同様であった。だからプリンスオブウェールズが日本に沈められた時には、気落ちしたとWW2回想録にも書いてある、と聞いた。まさか英国の没落を指揮する首相になるとは夢にも思わなかったであろう。

 

アメリカがもし参戦していなければ。ドイツは大西洋を越えることは出来なかったと思われる。その準備には十年は必要とする。だがアフリカ大陸への進出はずっと先に進んだであろうし、それは中東の石油を支配するのを意味する。そうなれば、アメリカといえども対抗するのは至難であろう。

 

一方でユダヤ人がイスラエルを建国するのは不可能である。その場合にパレスチナがどうなるかは分からない。詰まるところ、迫害するものがナチスイスラエルかの違いしかないかも知れない。多くの民族の苦難は変わりはしない。結局、ユダヤの人たちはアジアかアメリカに亡命するしかないだろう。

 

当然だが、ドイツに反感する人たち、征服された人々は亡命先を探すので、その筆頭がアメリカである事は疑いようがない。この人々の流れが世界史にどのような影響を与えるか。それは歴史上、特筆すべき人間の大移動と後世から研究されるであろう。

 

その場合の日本はどうなるか。アメリカが参戦しない以上、日米決戦は起きていない。すると、あの戦争を起きない歴史を考えてみなければならない。それをあの当時の国際状況の中に置いて、日本の政治体制、経済をシミュレーションしてみなければならない。いずれにしろ、憲法明治憲法のまま立憲主義を維持するのだが、元老なきあとの陸海軍を支配できない政治体制のままである。軍事独裁政権が誕生するのは自然だし、その場合の陸海軍の対立がどのような状況を作るか。かつ、誕生したばかりの満州帝国、日中紛争、と大きなイベントが多すぎる。

 

いずれにしろ、そのような世界はヒットラーが死ぬまで続くであろう。英、仏、他の亡命政府がアメリカに乱立する状況である。中東の石油はドイツが抑えこんでいる。インドや東南アジアは戦前の状況が一変する。支配者がイギリス、フランスからドイツに代わるのか、それとも独立紛争が勃発するのか。

 

いずれにしろアメリカが優位である理由はどこにもない。ブレトン・ウッズ協定が起きない世界で、基軸通貨はどうなるのか、金本位制はすでに主流ではなかったが、だからといってドルが基軸通貨になるとは言えない。

 

ドイツがいつかはアメリカ大陸を目指すとは言え、戦略家ならばソビエトを放置するとは考えにくい。二正面作戦も考えにくい。とすれば、ドイツはアメリカと開戦する前にソビエトを叩くであろう。第三次独ソ戦の勃発であろうか。この時にまだ三国同盟を締結しているならば、日本も参戦することになるだろう。ソビエトを東から侵攻する。ドイツはスターリンシベリアまで後退させて、そこで日本に牽制させる。

 

そうしておいてはじめてドイツはアメリカ大陸を目指すことができるのである。さて、まずは南アメリカの諸政府であろうか。そこに橋頭保を確保すれば、アメリカ本国との戦争もずっと楽になる。

 

その頃にはロケット兵器は誕生しているであろうか。核兵器は実用化されているであろうか。いずれにしろヒットラーはその使用に躊躇しないであろう。当然、アメリカもそのための準備は万端にしているであろう。ここにおいて、科学技術にとっては亡命者が多いアメリカに優位に働くと思われるのである。

 

こうして20世紀は偉大な独裁者、帝国主義が勢いを持ち続ける時代として教科書にも書かれることになる。我々の知る経済戦の行く末とは全く異なる結論が得られそうである。戦後の様々な科学技術の発展、発見、発明、人間性の新しい価値観というものは、どうも独裁国家では誕生しそうにない。そう思われる点がこの新しい歴史のネックである。