落合博満氏、表彰式で森友哉選手にまさかの公開ダメ出し

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このコメントをみて、初めて分かった気がした。それはエンジニアとして考えていては気付きにくい部分。

 

野球を構成するものは何か、ひとつは観客である。プロである限り、客を呼び込めなければいけない。客が溢れるようになればテレビ中継、ネット放送だってある。これは集客型ジョブの最も重要な点であろう。

 

もうひとつが技術である。野球であろうが、キャバクラであろうが、接待業であろうが、営業であろうが、風俗であろうが、泥棒であろうが、政治であろうが、技術というものがある。日本は一億総エンジニアの国である。そういうジョブをやってきた。それがこの国の伝統である。

 

では技術とは何か。最終的には個人の価値観であり、実現力である。それは別の言い方をすれば、現実との妥協方法である。

 

いくらホームランを夢見たって、特撮ではあるまいし、ボールは物理法則を超えて飛びたちはしない。自分の筋肉の量、反射神経、骨格的な制約、相手との駆け引き、そういう様々な制約の中で、妥当な場所を見つける。技術とは何かを好き勝手にするものではない。出来ない事は何かを知ることである。だからどうするか。そこから始まる。

 

さらに人間の特徴として技術を伝播させる能力がある。この能力には盗むことも含まれる。冷戦中、多くのスパイがこれを試みて、人知れず葬られた人もいるだろう。

 

そういう全てが

「安易なのはわかるけど、キャンプ中に釣り球の練習してたの。そんなにしてないと思う。結構、難しいんですよ。今のサヨナラシーンを見て、もうちょっとインサイド使えばいいのに。ピッチャー側もバッターも頭の整理をしていかないと。見ているお客さんは面白いでしょうね。やってるベンチはたまらないですよ。なぜ、そのボールを行くんだよ」

のコメントに集約していた。

 

練習もしていないのに上手くいかないなんて当たり前でしょ。これは技術的な指摘。結構、難しいんですよ。これは、自分の体験からの指摘。見ているお客さんは面白いでしょうね。これは興行的な側面からの指摘。プロだから客が喜ぶのはいい、だけど。。。やってるベンチはたまらないですよ、なぜそのボールを行くんだよ。これはまた技術論。

 

技術的に劣っていて客が喜べばいいじゃないか、という考え方もある。だが、そんな低レベルを続ければそのうち枯れてしまう。高い技術に裏付けられないプロなぞあるものか。そんなのサッカーを見てればわかる話じゃないか。

 

そう言っているように受け取った。技術と興行のジレンマ。最終的には、その競技を決めるのは観客である。プロならば特にそうだ。

 

だから、技術だけでは値段が付けられない。だからといって興行の成功だけで決まるとも言えない。どうして興行的に成功したかなど分析できないからだ。何が人の評価を決めるのか。

 

目の肥えた観客だけでは数が少ない。人を増やすには裾野を広げるしかない。そのためには多くの人を取り込む。その人たちはルールさえ知らないだろう。それでも成功させたければ、楽しいという体験がいる。

 

Experience。eXPerience。XP。2001 年に Microsoft はそういう結論に達していた。面白いって何?知らなくても使える楽しさって何?ルールを知らなくても楽しめる?そんなことが本当に可能なの?ヒカルの碁はそれを成立させた稀有な例だ。僕たちは音符のイロハなんか知らなくてもこれだけ音楽しているじゃないか。

 

観客を顧客に言い換えれば、この問題はすべての業務が多かれ少なかれ直面している事だと気付く。パンだけでは足りないとローマ人が要求したとき、為政者たちは、コロッセウムを建築した。それを維持するだけのエネルギーが供給され続けていたからだ。

 

政治的関心を失った市民を満足させるために為政者たちはサービスを提供する。それでローマの政治体制は崩壊したか?どうやら違うらしい。政治の顧客は民衆ではない証拠であろう。

 

顧客満足度という場合、極めて主観的であるが、これ以外の評価点を誰も開発していない。だから今もテレビ局は視聴率を使い続けている。しかし、個人的満足度などあっという間に忘却されるものである。ワールドカップの興奮も秋までも持たなかった。

 

例え企業が倒産しかねない危機を救われても人はそれを忘れる。そういう話がブラックジャックにあった。地下壕にて。「さっき助かったら一千万でも出すとおっしゃたね」

 

ならば、顧客満足度を高める方法はひとつしかなく、繰り返し繰り返し接触することだ。そういう意味で、揮発性メモリに例えてよいだろう。電源が落ちれば跡形もなく消えるように消えてしまうものだ。

 

一方で、技術はパーシステンシー、HDDなどへの保存と同じであろう。これは少々使わないくらいでは消えたりはしない。なんども発掘され使われ刷新される。

 

よい営業マンはこまめに連絡を欠かさないと聞く。相手の変化を敏感に汲み取って先んじて行動する。よい技術者は常に世界の変化に敏感だと聞く。常に自分の中のものを更新して世界とどう対抗するかを考えている。

 

この世界をコンピュータと呼んでもそう違わない。人間は世界に世界を射影する。自分の中の世界を現実の世界で実現する。その世界がまた誰かの世界を変えてゆく。