モスクワで北方領土返還反対集会、安倍首相の訪問控え

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ロシアの主張は、実に外交の巧さを感じるものだ。世界中のニュースを見ていれば、どの国家も堂々と自分たちの正当性を主張する。それが如何に出鱈目であっても構わない。なぜなら世界が求めているのは真実ではないからだ。

 

説得する、それは別に海外に向けて主張すればいい問題ではない。彼らが最も説得しなければならないのは自国である。国民が信じればそれでよい、そういう側面がある。ここさえ間違わなければ海外のニュースがなんと言おうと渡り合える。この真理に基づいて、中国はアメリカと堂々と渡り合うし、ロシアはヨーロッパと渡り合ってきた。

 

例え、経済制裁されようと譲れない、イラクでさえ一歩も引かない。戦争になれば結果は明らかではないか、というのは上陸戦を前に講和した国家の考え方であろう。彼らは政府が倒れてからが本当の闘いである、そう考えているかも知れない。

 

たとえ最終的に IS に地域を乗っ取られようとも、この交渉で引き下がるわけにはいかない、それくらいの気位は持っているように思われる。イラクがもしアメリカだけを相手にしているのなら話はもっと簡単なはずだ。だが、中東の力学は、アメリカなど中心にいない。サウジアラビアアラブ首長国連邦イスラエルがいて、それは単なる中東の覇権ではない。イスラム教というバックボーンがある。

 

外交において、互いに本心をさらけ出す必要はない。語っていることが、本音である必要もない。重要なのは説得力であるし、そのひとつひとつを相手は突破してゆかなければならない。

 

壁を何重にも構築して、互いにそれを打ち破ってゆく、外交は本質的に塹壕戦であって、その過程の中で、相手の本心を伺う。互いに決裂すればいいと考えるならば、話は簡単だ。なんとか合意する必要が両者にあれば、どうにかして着地点を見つける必要がある。どのような国家もだたの一歩も譲らすに交渉を成功させた例はない。

 

そういう意味ではロシアは非常に正直な交渉相手という気がする。彼らは、なるほど、言うことは横柄だし、歴史への歩み寄りもないように感じる。だが、交渉はまだ始まってもいない、ということを考えれば、なんと多くの手の内を見せてくれていることか。

 

我々は、これだけの課題を抱えているのだ、これを何とかしない限り、君たちの主張などただのひとつも飲む気はない、この交渉で決まった事は、互いに責任をもって履行しなければならない。

 

領土を失う可能性のあるこちら側としては、当然だが、それなりの見返りがない限りは譲れない。その結果が我が政権を転覆するなどありえないし、今後の互いの外交関係も同様である。

 

君たちは、島を取り返したら、どうせロシアなど歯牙にもかけない気だろう?でなければ、北方領土という問題を抱えていながら、クリミア半島の問題で、我々ロシアを支持しない選択などなかったはずだ。

 

君たちは目の前の強い側に簡単になびく。アメリカに対して、なにひとつ主張して勝ち取っていないではないか。そのような国家と我々は、どういう交渉ができると思うのか。

 

そういう話しを繰り返し、過去の合意さえも見直してしまおう。その上で、新しい解決を狙いたい、そうロシアは考えてきたはずである。可能なら四島とも返還しない、それを必ず狙っている。少なくとも四島返還はあり得ない。もしそれをして欲しければ、北海道の半分くらいはもらわないと応じられない。それくらいなら言いそうなものだ。

 

いかなる過去があれ、どうして日本はいま日ロ平和条約を締結したいのか。今を急ぐ理由が実はなさそうに思われるのだ。日本が外交において独自にロシアとの関係を築きたい理由がない。中国の台頭、アメリカとの距離、新しい国際関係は、どうもアフリカを中心になりそうだ。なぜいまロシアなのか。

 

もしかして、日本側の思惑は、ただこの政権で締結したという歴史的事実が欲しいだけではないか。少なくとも歴史には残る。

 

もちろん、プーチン後を見ている可能性はあるのだが、プーチン後のロシアがどうなるかを正確に見抜ける人材がいるとは思えない。彼の政権があとどれくらい続くかは知らないが、その後を束ねる権力者はいないように見える。これは見えるだけで、知らないだけで、どうせ国を担うような人は、その時になれば、突如と出現するのである。

 

いずれにしろロシアにはロシアの思惑がある。ヨーロッパの経済制裁が、おそらくロシアの理由となっている。経済的に日本とのつながりを深めておくことが、彼らの目的であるとすれば、

 

彼らが中国の経済成長が停滞した後の世界を考えているとしても間違ってはいない気がする。その時の中国が世界とどのようにコミットメントするかは判らない。だが日本はその時には中国と対立する可能性が高い。

 

その両方と強い経済関係を今のうちに構築しておく。そのためなら小さな島のふたつまでならくれてやっても構わない、その辺りが落としどころのような気もするが、それを拒否する理由はロシアの側にだけある。日本の主張はここ70年なにも変わっていないので特に聞く必要はない。

 

これを踏まえると、どうも日本には強力な手がなさそうな気がする。それでも、今の安倍政権を支える支持層は、仮に日本を海外に売り飛ばしても支持する層である。この事実をロシアが掴んでいないはずがない。

 

ロシアは準備万端で臨んでいる。果たしてわが邦にこれと渡り合える人材がいるのか。そんな人材が、机の上で構想を練っている、そう信じたいものである。