香港国安法の全文判明 中国本土で起訴や裁判の可能性も

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中国が共産党支配の国であり、民主化は断固否定する立場から、香港の長期的未来は明白であった。一国二制度は返還時の条約であるが、そもそも論で言えば、イギリスが不当に占領した島であって、甘受したとしても心から認めた政府は、中国のどの政府であれ、存在しない。

 

2047年まで民主主義を認めるとした条約はあるが、それが中国の民主化を促進するならそんな約束はご破算である。そこまでは予想の範囲内である。

 

少なくとも習近平になってから中国は強権的になった。強権的になる事は、その前から予測されていた。これも想定されたひとつの未来であろう。恐らく、状況が中国にそういう態度をとる事を許した。

 

ひとつに経済的強者という立場がまずEUを黙らせる。文句のひとつも言うが、そんなのは反論して終わり。相手も異議は唱えた、こちらも反論した。お互いに義務は果たした。あとは野となれ山となれである。香港の人たちがどうなろうが我々の知った事ではない。今は別件で忙しい。

 

中国の誤算はもちろん、アメリカのトランプであって、彼もまた強権な人物である。そして、十分に正直な人である。彼の決断は過激であるが、分かりやすい。そして、それは、西側諸国としては十分にアメリカの強さに裏付けられたものに見える。

 

それでも中国は様々な動きを加速しつつある。東シナ海の覇権、インド国境の覇権、尖閣諸島の覇権、アフリカに対する橋頭保の確保、EUの港の半分は既に中国資本が運用していると言う。そして、台湾にまだ手を出していない事は、それだけ慎重である証拠だし、香港への強権は、単に台湾攻略への布石でしかない、そう考える方が合理的と感じる。もし武力侵略をした時、世界はどう動くべきか、その事をもう現実として覚悟しておく必要がある。一国では不十分、世界でまとまらない限り、対抗しえない。

 

中国の敵はアメリカ、インド、ロシアであろう。国内にはウイグルもある。ウイグルがなぜ脅威なのかは知らないが、いずれも敵の敵は味方だから、これらと敵対する国家への支援は惜しまないはずだし、それらの国もアメリカを選ぶくらいなら中国を選ぶ。

 

ロシアが紛争地域に武力を持って肩入れして影響力を行使するのとは違い、中国は基本的に札束の影響力を最大限に行使する。貧困地域をすべて買い占めるつもりではないかというくらいに援助を惜しまない。

 

地政学的に、どのような国家も敵と国境を隣接する事を嫌う。それは非常に莫大なコストを生むから、緩衝地帯を必要とする。それは自然の要害でもいいし、その他の国でもいい。

 

中国は国内に多くの民族地域を抱えている。中国の支配地域は清王朝をベースとするように見えるが、秦(キングダム)から、漢(劉邦光武帝)、魏(三国志)、晋、隋、唐、宋、元(義経)、明(洪武帝)、清と国境線は細かく変わっている。

 

中国の歴史は大陸国家の例にもれず、歩ける所までは行くという人間の本能に基づくようで、領土の拡大と縮小の歴史でもある。何もこれは中国の専売特許ではなく、ヨーロッパだってアレクサンダー大王の冒険と同様、行ける場所まで歩いてみようという気分で国は大きくなったのである。

 

だから、山か砂漠か海で行き止まりになるまでは行く。この辺りは、虫が山を越えられない分布とよく似ている。ヨーロッパの端にあるポルトガルとスペインが海の先に向かったのは、反対側が強い陸兵を持つ国があったからだろうし、船が更に発達すれば海だけに特化できるイギリスが覇権に動いたのも納得できる気がする。

 

中国の歴史も同様であって、これだけ巨大な帝国は、ヨーロッパとの地形の違い、巨大河川の有無、食糧増産の状況、宗教対立の有無、国家間の敵対関係、周囲の部族の脅威、防衛手段のコスト、王族との婚姻関係などが関係してきたと思うのだが、アジアの統治の理想は中国が中心となって構築してきた。周囲の国はそれを取り入れて発展した。日本など独自化の点では先鋭の一例だろう。

 

その中国が支配体制として共産主義を選択したのは、これだけの巨大国家にとっては幸いだったと考えらえる。民主主義がサイズに関係なく万能だと考えるのは多分、間違っている。せいぜい通用するのは1億くらいまでのはずである。アメリカが州という民主主義の上に連邦制を採用したのは賢明というよりたぶん、それしかなかったのである。

 

中国も地方自治は強いのだろう。頑迷と呼びたくなるかも知れない。盤石な共産党で幾ら串刺しにしても、恐らく全員が一筋縄ではいかない人達である。10億人の国である。共産党の主要な人数だけでも小さな国よりも遥かに多そうだ。

 

これだけの数をどう統治するのかという経験を我々は経験した事がない。だから中国の政権というのは、彼らにしか分からない苦労と工夫がある。もちろん、どのような国もそういう分からない勘所みたいなものがあって、それを簡単に破壊しては民主主義に置き換えて上手くいくと地域に混乱をもたらしたのはアメリカである。ま、同じやり方をすれば中国も失敗するはずだ。

 

問題は、なぜここに来てこれだけの強権を全方位に向けて発し始めたかである。北のロシアに向かっても何かを仕掛けたら、本当に四面楚歌を自ら求めているように見えてしまうのである。

 

コロナは影響しているように見える。それが経済減速と関係していないはずがない。一般的に政権が求心力を失った時は外交に転じるものである。これは国内の問題を海外に転嫁するためであって、ひとつには軍をどう抑え込むか、または抑えきれないかであろう。日本はそれを体現した。何度も引き返すチャンスがありながら悉く失敗し戦争への道を突き進んだ。

 

中国が海外への野望を持っている事は一帯一路でアフリカまでのルートを確保しようとする事からも明らかだし、もしかしたら、彼らは次の覇権を握るのはアフリカの国家と冷徹に読み切っている可能性さえある。今のうちに、そこに楔を打つなり、爪痕を残す事で、アフターアメリカの世界で有利な地位を築こうとしているのかも知れない。

 

ではどうして拡大主義を中国は取るのか、その理由は共産党の存在の為という事になる。そして、地球が有限な資源である以上、拡大主義はねずみ講と同じく、どこかで破綻するのに決まっている。どこかで拡大しきれなくなった時、問題は封じれなくなるはずである。

 

すると、拡大主義の理由は何かという話になる。この理由が共産党の存続と無関係のはずがない。何かを手に入れ続けなければ維持できないという事になる。それは入力と出力の関係と同じで、恐らく自転車操業的に元手が必要なんじゃないか。

 

元寇において勝利した鎌倉幕府は、配当する土地がないために滅んだ(と聞いた事がある)。人心が離れればどのような巨大国家も陥落する。それはアメリカも日本も中国も同じだろう。

 

民主主義はそれを選挙で解決しようとする。中国はそれを共産党大会で解決しようとする。しかし国家的な求心力を失えば、民主主義国家ではそれ以外の党の出現を待つという解決法があるが、共産党内に候補者がいない場合は致命的な問題になる。その分だけ強靭性に弱い。

 

だからといって、中国が民主主義になるのが望ましいとかと聞かれれば否と答える。共産党だから、これだけの巨体が維持できるのである。もし、民主主義になれば何が起きるだろう、もし、トランプのような人がトップに立てばどうなるものか、そういう警戒を選挙の度にしなければならないのは周辺国には大きなリスクだ。

 

アメリカの弱体化が中国の強気を引き出したのも間違いなさそうである。コロナでこれほどの感染者を出すアメリカには底力しか感じないが、病原体が人々を弱体化させている可能性は確かにある。この病気が何をもたらすかをまだ誰も見つけていないからだ。中国でさえだ。

 

という事はコロナパンデミックは中国にとっても予期できない事案だったはずで、それが次の手を必要とした、それが今ではないか、とすればこの拡大主義は予定よりも早い発動であるが、元からあった計画であるともいえる。そして、この早まった実行は、予測しなかった何かによって彼らに突き付けられた結果だろうし、予想しなかった何かを我々も突き付けないと彼らの計画は更に増長するだろう。

 

勢いに乗るためにいま実行を開始したのなら、これは警戒が必要な事案である。その鍵を握るのがコロナパンデミックである可能性は高い。香港の事例をみても分かるように、我々は中国のする事に有効な手立てを持たない。世界で唯一アメリカだけが、規制によって対抗しうる。幾つかの地域は中国への懸念を表明し始めているが、これにトランプ政権の対決姿勢が果たす役割は大きいはずである。

 

すると11月以降のアメリカが現在の状況を決定するはずだ。そのために、中国は少し早いが今から動き出した。粛々と歩きラインの上で立ち止まった。時期が来れば一斉にそれを超えるはずだ。多くの国は政治、経済云々の前に戦術レベルで遅れをとっている。我々の戦略など言わずもがなであろう。

 

国家が何等かの対抗手段を用意したとしても、今語るはずがないか。秘密兵器は秘密だから兵器になる。そして秘密のまま廃棄するのが最も望ましい。

 

この世には明らかにすることで対抗するものと、秘密だから対抗できるものがある。そして明らかにしている事を見れば、だいたいの秘密も分かるものである。だいたいの秘密は張り子の虎である。