米警官、黒人男性を背後から銃撃か 米ウィスコンシン州

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逃げたから撃たれたなんて呑気な説もあるようだが、実際は車に戻る=拳銃を手にする可能性であって、この問題さえも、幾つかの視点を変えれば、相当違った見え方がしてくる訳で、恐らくそういう映画も生まれるだろう(既にあっても当然)。

 

事後に調べてみると、この黒人がケンカの仲裁をしようとしていたという話があって、それを駆け付けた警察官が射殺したシナリオである。警察が到着した時に、とりあえず、日本のようにどうしました?と聞くなどあり得ない。何はともあれ全員に拳銃を持っていないかを確認する。

 

そこで逃げ出そうとしたら100%拳銃を持っているに決まっている、または取りに向かったというフラグが立つ。銃弾は真実よりも早く自分の頭蓋骨を粉砕するからである。

 

そんな事は逃げた黒人の人だって100%知っている。それでもあんな事件があったばかりだし、生まれてからずっと警察官には全力で警戒しなければならなかった人たちである。逮捕されたら冤罪など100%起きる。その場で窒息死する可能性も高い、つい先日起きたばかりの事件だ。司法などとうの昔に彼らに対しては崩壊している。ならば逃走を図るのが一番、未来がある、可能性がある、そう考えるのにも理由がない訳ではない。

 

アメリカは未だにあのような状況である、そう簡単に撃つはずがない。そういう計算は働いたかも知れない。十分に逃げれると目論見はあったかも知れない。残念ながら今回の警察官はそういう人ではなかった、それが彼の誤算であった。

 

アメリカで起きている事の殆どは差別でも人種でもありはしない。全ては「銃」に起因する。警察の行動様式の全てがまずそれによって規定される。銃がある事を前提に動けば、こんな感じになるのは明らかだ。それは刀剣文化で暮らしてきた日本人は多分、本心からは分からない。撃たれる前に撃てが劇中のカッコいいセリフくらいにしか感じられない我々とは、文化の前提条件が違っている。

 

この事件だって、両者の判断を聞けば、それぞれに言い分があるはずだ。殺された人は言い返す事が出来ないが、逃げた気持ちは分かるという人なら幾らでも居るはずで、ストリートで適当にインタービューした人でも多分、そう語ると思う。

 

アメリカで起きている事は、決して人種問題だけではない。経済格差だけでもない。そんなものはアメリカが抱えている問題のひとつの側面に過ぎない。

 

民主党は差別撤廃を強烈に主張するが、彼らは富裕層と貧困層の間の壁は決して取り除こうとしない感がある。バイデンでさえ、その匂ってくるエリート感は、ちょっと貧乏人は寄せ付けないオーラがある。オバマでさえ持っているこの感じは、はっきりと富裕層の間では人種差別を許さないという感じがするのである。その感じと彼らが主張する大きな政府の主張の間に何の関連もないとは信じない。

 

一方の共和党は白人階級という感じが強い。彼らが主張する小さい政府も、その思想の延長線上に見出せるはずだし、自由とか自然という感覚も、現在の自然科学ではなく、多分に19世紀的なものである。ある意味では白人が建国したアメリカがそのままあるのが理想という感じだろうか。保守的な感じもその歴史的固定性と同類な感じがする。

 

経済という階層と人種という階層がクロスに突き刺さっているのがアメリカであって、そこには恐るべき共通点がある。どちらも奴隷を求めているという事だ。黒人奴隷を廃止したから、アメリカという国の構造を詳らかにすれば、次の奴隷を必要とした。それが移民という奴隷にシフトしただけの事だ。

 

其れをトランプがNOと言った。奇しくもリンカーンと並ぶ奴隷制への拒絶をした大統領と解釈できる点が面白い。

 

そのトランプの本心は白人層が奴隷的階級に落ちるのが忍びないという点からNoを突き付けたという所だろうか。それを回復する為には、国内に雇用を生むしかないという政策も当たり前の主張に見える。その為には他の誰かを追い出すしかないのも自然だ。流石に西部を開拓してきたひとたちの末裔である。

 

しかし、普遍的事実としてアメリカは奴隷的労働がなければ成り立たない国家である。黒人がだめ、移民もダメとなれば、次の候補はAI+ロボット=アンドロイドである。当然、映画などにバンバンそういうシチュエーションが描かれてきてるし、アトムの頃からロボットは奴隷的労働力だったのである。

 

ただ、アメリカは素直に奴隷の代わりのアンドロイドを導入するという図式は受け入れられないから、何か別の誰の道徳心人間性も傷つけない正当性がいる。今はそういう過渡期であると考えられるのと、実際に使用できるハードウェアが存在しない。この時期をどう乗り切るかという話になっている。

 

文化の盗用も BlackLivesMatter もそういう話であって、思想的側面は全然難しくない。代わりになる奴隷を早くよこせ、アンドロイドのいる生活を早く寄越せという社会的潮流である。

 

だから問題は銃なのだ。

 

銃を持っていると仮定して動く以上、怪しい動きをしたら撃つしかない。防弾チョッキを着ているかも知れないと考えたら、突撃銃やマシンガンなど連発系の銃と考えたら、人差し指Index Fingerが引き金を引く力さえ奪えば安全である。問題はそれを取り除くのにどれくらいの銃弾をぶち込む必要があるかだ。

 

ポケットに手を入れる、車のダッシュボードに手を伸ばす、棚の中に手を入れる、この日常生活の何気ない行為は全て「銃」の存在を仮定すれば、全て先に撃つしかない状況である。それは撃たれる側も知っている。だから普通は直ぐに手を見せる。

 

そうすればいいではないか、という話は、恐らくアメリカの黒人たちがどれだけ不当に逮捕され、刑を確定され、服役してきたかを知らなければ納得できない話だろう。もちろん、これらは全てテレビドラマで得た情報だが、実際はドラマよりもタフであるという一般論を適用すれば、そういう背景がなければ、警察官を前に逃走を図る切迫感は理解できないのである。

 

ナチスのSSに逮捕されそうになったらどういう行動を取るか、日本の特高に捕まりそうになったらどう行動するか、例え死ぬ事になっても逃げるはずである。アメリカの警察官は彼らにとってはそういう存在である、くらいに考えないと理解できそうにない。

 

そして、無邪気で純真なアメリカの人たちにそういう自覚はない。幼年期の終わりではないが、そういう子供のような大らかさではこの危機を乗り越えられないのではないか、というのが率直な感想だし、この川の水面で水滴が飛び散ったような事件でさえ、川底にひしめく幾つもの石だの人の骨などが重なり合って複雑な水流を生み出している結果であると考えると、まあ、この撃った警察官がどのような処罰を受けるとしても、それで解決するような問題とは思えないし、まして、鬱積したストレスをすべて街中で放出する、まるで発動篇のような暴動がどれだけ続こうと解決する問題とは思えない。

 

アメリカがこの立ち向かう問題は、なかなかに複雑で、そして明らかに人類を前進するに足る課題だと思う。そして中国共産党はこれを横目に虎視眈々と戦争への準備を進めているらしい。習近平が何を目論んでいるのか、これもまた児戯に等しいような純真さではないかと訝るのである。