「ガンダムMSV」幻の機体“一般作業型ザク”が35年越し立体化! 作業シーン再現も

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ガンダムの成功の一翼を担ったのはモビルスーツの造形であるが、特にザクがデザインで表現したメッセージ性は、ガンダム以前、以後という新しい紀元を生み出した。

 

多種多様なロボットの存在は、鉄腕アトム('52)の「地上最大のロボット('64)」によりワンオフ機の魅力あふれた世界として既に描かれている。プロトタイプ、試作機、実験機の魅力は、鉄人28号('56)で描かれ、27号vs28号はそのタイトルだけでロマンに溢れる。

 

マジンガーZ('72)が改良、バージョンアップ、グレードアップで魅せ、特にジェットスクランダーの投入は、工学の頂点を示した。併せて、同シリーズで新型機、後継機であるグレードマジンガー('74)を投入した。

 

宇宙戦艦ヤマト2('78)で、アンドロメダという主役級の戦艦のほかに主力艦を描き量産型、廉価版という存在を示した。地球、ガミラス艦隊ともに、戦艦、巡洋艦駆逐艦などの異なる役割の艦種を登場させ、作中で見事な艦隊戦を描いた。

 

そういう戦前から連綿とするアニメーションの流れの中にガンダム('79)を置いてみたとき、それでもザクは、世界を変えたといえるだけのインパクトを与えた。それが何であったか、それまで一点ものとして発展してきたロボットアニメにおいて、量産という概念を持ち込んだのみならず、初めて軍隊の中(外としての軍隊が参加した作品はザンボット3などが存在する)を描いたといえる。

 

これまでの作品との大きな違いは、敵が王政ではなく民主主義国家であった事ではないか(独裁制も民主主義の一形態である)。そして軍隊の階級も取り込んだ。ガンダムは、現実によく似た組織図が描ける初めての作品ではなかったか。すべての作品を調査したわけではないが。

 

そういう背景の中で、ザクとは軍により採用された機体である、という前提は、それまでのアニメが用意した{敵}の存在を遥かに超えた設定であった。

 

現代を舞台にしながらも{敵}については、架空であるロボット作品群において、初めて、近未来を舞台にしながらも{相手}を架空ではない敵対国として設定した。それは米ソ対立を知らなかった少年少女たちに、大人たちが寓話としての世界を話ろうとする体験ではなかったか?

 

というのは、今になって思えばという話であって、当時の視聴者は冷戦など知ったこっちゃじゃなかった。ただただ、ガンダムという世界観の魅力に取り込まれたのである。

 

これは今までとは違うぞという予感は、もちろん、最初は拒否反応を持って受け入れられた。それは、少し異なる文法を咀嚼し自分の中に取り入れるまでに時間が必要であった、という話である。

 

それでも一度新しい文法を理解すれば、それ以前のものが旧くに見えるのは仕方がない。大人になればまたビンテージの魅力に気づくこともあるが、常に未来しか見ていない子供にとって、それはもう後戻りのできない世界であった。

 

軍という設定が、自然と、現実の軍隊からの剽窃を試みるのは自然である。当然、世界中に展開するアメリカ軍がモデルである。各地に展開する部隊と、その装備の違い、特に兵士たちの迷彩服の地域ごとの違い。それをモビルスーツに転用するだけでも十分に新しかったのである。

 

当時、子供たちは空母よりも戦艦が強いと思っていたし、なぜ戦艦が現実の軍隊では存在しないのかを理解できなかった。湾岸戦争('90)で改良されたアイオワ級ミズーリ」「ウィスコンシン」が参戦したと聞いたときは、やっぱり戦艦は必要とされるんだ、と考えたりしたものだった。

 

そういう時代に、ガンダムの艦船が戦艦になるのは仕方のない話である。戦闘シーンから砲戦を取り除くことはできなかった。そういう意味で、ガンダムが革新だったのは「兵士」の存在であって、その装備ではない。

 

つまり、ザクのデザインとは、その後ろにリアリティのある「兵隊」が存在する、これを知らしめた初めてのデザインであった。その派生として、補給部隊が登場するのは当然の帰結であるし、実際の作中にも登場した。

 

そのバリエーションは多様を極め、それを中心に描く作品も多数登場した。その一環として「一般作業型ザク」が登場するのも自然であるが、このデザインは、ザクと比べると弱い。どうもこのデザインは一般作業用にしては過剰スペックと感じる。

 

もちろん、当時の状況を考えれば、あらゆるバリエーションはザクをベースに組み立てるしかない。誰が見てもザクを改造した機体にする、という制約があった。ザクをベースに改造したものでなければならない、それが全員の共通認識であったろう。

 

だからグフであれ、ドムであれ、ゲルググであれ、そういうデザインになっている。そして、大きく改良されればされる程、ザクよりも高性能である、というのが見た瞬間に納得できた。ふたつの機体を並べたとき、よりどちらが高性能であるかが一目で分かる、これは驚愕すべき世界観だと思う。連邦のジムなどその最高到達点であろう。

 

だから「一般作業型ザク」はザクをベースに作業に必要な装備を追加した、そういうデザインに見える。現実的に考えれば、コマツの重機を作るのに10式戦車をベースにするなどありえない話だ。だから、本当(!)の「一般作業型ザク」は、もっと違うデザインになるはずだと考える。

 

少なくとも。全部が軍用と同じ装甲はありえず、内部を保護するにしても、もっと薄い鉄板やプラスチック、布で十分であり、荷物を手でもって運ぶだけではなく、もっと効率のよい方法も見えてこなければならない。

 

すると一般作業には何があるのか、荷物の運搬、地上工事、施設組み立てなど様々な作業を想定しなければならず、そのうえで汎用とはいえ、それぞれの作業に適したアタッチメントも存在するはずである、ある設定の背景までを十分にデザインした上でのデザイン、そういうものを欲している人も、きっといる。

 

そういうものを創造した上で、初めて軍用と比べるとほとんど徒手空拳の民間機の装備で、軍用機とやりあうというロマンも生まれる。ダイハード('88)などその魅力がうまく形になった作品で、ガンダムの世界でそれを実現するには、どうしても一般作業という設定が必要になる、

 

その片鱗を見せたのが旧型ザクでアムロに戦いを挑んだガデムの話であるし、ガンダムはあちこちに民間人を登場させた、ミハルの話もそうであるし、そもそも主人公たちの多くが民間人であるという設定も、チャンスさえあれば民間機vs軍用機をやろうとした名残ではないかと信じるのである。

 

もっと現実的な世界像を思い描き、映画で描かれたガンダムとは少し違うガンダムの世界が観てみたい。そういう造形を目指すモデラーの作品が見たい。

 

誰もが独自に世界を拡張できるのがいい。それがプラットフォームとしてのガンダムの魅力だ。