中学理科、2021年から遺伝用語「優性・劣性」が「顕性・潜性」に “劣性遺伝”は間違いになる? 文科省に聞いた

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優性・劣性の法則は、英語では dominant(支配的), recessive(後退の) と表記される。日本では、優性は、優生(eugenic) と同音なので簡単に誤解される。優生思想は簡単にナチスのジェノサイドの根拠となったが、優生思想などなくともどうせ人間はジェノサイドをする事は、1990年から現在までの世界史で明らかになっている。

 

engenic とは en(良い)-genic(種) であり、19世紀半ばにイギリスで提唱され20世紀半ばまで信じられて来た。恐らくイギリスの没落に対抗する心理的な劣等感を背景に生まれた考え方である。遺伝子が生物の形質を決める。顔の作り、背の高さ、病気への強さ、どれも遺伝子が決めるから、それを選択したいという考えは少し利口なら誰もが思う。

 

我が子が病気になって欲しくない。そうである遺伝子を選択できる方が好ましい。生物はそれを遺伝子の組み合わせと多様化によって実現する仕組みを開発した。多様化とは適応できない場合の多くの死も含めての戦略である。そこに少しの人為的な応用をする事の何が悪いか。

 

ここでメンデルの分離の法則が重要になる。分離の法則とは、遺伝子は対であるが、それぞれが混合した訳ではなく、それぞれが分離した状態のまま表現型を決定する仕組みである。

 

1つの形質(表現型)に対して普通は、出現するか隠蔽するかのどちらかである。よって1bitの情報があれば本当は十分なはずである。では生物は出現するか隠蔽するかをどのように選ぶか。

 

この星の生物は、その選択をしない方法を選んだ。つまり、どちらかに決めてしまえば、そうでない性質は永遠に失われる。出現と隠蔽で例えば出現が選ばれれば、その後もずっと出現する、すると隠蔽は永遠に失われる。逆に隠蔽が選ばれたらその後の子孫もずっと隠蔽になる。そういう部分を現生生物も持っていない訳ではないだろうが、そのような方法を積極的に選択した生物は早い時期に淘汰されただろう。

 

A,a のふたつの遺伝子の組み合わせは AA,Aa,aA,aa の4通りがある。このうち、どちらを表現しようがすまいが生物からすればどちらでもよいはずだ。

 

どちらの可能性も0にしない事が可能性を高めるとしたのが進化上の戦略である。つまり、ある情報ずうっと2ビットのままで保持する。決してマージしてどちらか片方だけにはしないという事である。

 

優性劣性は、今後は顕性潜性という呼び方に変わるが、面倒なら、ドミナント、リセッシブとでも覚えておけば十分だろう。というか、優性と劣性は例外が多すぎて、ひとつのパターン程度の意味しかない。発現に意味はないのである。

 

それが環境上にマッチすれば繁殖するし、アンマッチなら衰退する、それだけの話で、メンデルの重要な発見は衰退した所、その形式がDNA上から失われる訳ではない、または失われない仕組みがある事の発見だ。

 

もちろん、これは生物の1千万年程度の戦略であるから、わずか数百年先しか想像できない人類がこれに従う必要はない。そのうちDNAデザインは普通に行われるようになるはずだし、それで選択した形質が、時代遅れになって、なぜこんなデザインにしたんだという理由で子に殺される親も登場する事だろう。

 

いずれにしろ、この変更は、長く優性とは優れたと言う意味ではない、表現する側であるという説得が無駄に終わった証左でもあろう。遂に説得するより変える方がはやいと結論した。ある意味で学問の敗北である。

 

優性がもし環境に適用したなら AA,Aa,aA の組み合わせが繁殖するだろう。それでも aa の組み合わせは生まれる。生まれるが、死亡する可能性が高い環境であったとする。では劣性側しか適用できない環境になったらどうなるか。

 

生き残るのは aa 型だけになってAの表現はこの世界から失われてしまうだろう。それはそれで危険そうである。そのような環境では A はどうなるのか。Aa だけど aa として発現する場合もあるだろうと思うわけである。白人と思っている人が遺伝子を検査したら黒人系列の血が入っっていたというドキュメンタリーをこの前テレビで見た。

 

遺伝子の発現はDNAだけで決定するような単純なものではない。その程度の単純な仕組みで40億年を生き継いで来たのではないのである。メチル化やゲノム刷り込みなどもあるし、YYで発現する伴性遺伝もある。複数の遺伝情報が順に発現する事で初めて性質を示すもののある。

 

そこに書かれたコードがある事と、それが発現する事の違いは、我々はWindowsというOSで知る事ができる。我々は Windows を使っているがその全てを動かしているわけではない事に等しい。一度も起動されないままのアプリケーションは幾らもある。

 

wikipedia によれば、豆のシワを決める遺伝子は、その遺伝子が生産する酵素の量に注目すると完全優性にはなっていないそうである。人間の短絡な知性よりもずうっとずうっと深淵なのである。

 

しかし、顕性・潜性は覚えにくい、もう少し何とかならんかったか。そもそも二文字で抑えようとした根性は気に入らない。短いから誤解も生まれるのである。優先型、劣後型なら少なくとも優生との誤解は少し減ったろう。国内限定ならA型、B型でも困りゃしないのである。どうせ地震のP波とS波が primary wave と secondary wave の略語と知らなくとも困らずに使ってきたのであるから。

 

最初は顕在性、潜在性としようとしたのだろうけど、”在”の字の妥当性を散々議論したあげくに取り除いたのだろうと思うが、学問も大変である。