日本沈没 #4

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NCIS Season18が終了した。Eleanor "Ellie" Bishopがドラマから去った。どうして急にという疑念が拭えないでもない。NCIS:LAからも Season12で Nell Jonesが去る。二人とも力のある俳優なので見れなくなるのは残念だが、別の作品でいつか会えると思えるならそう悲しくもない。

 

Leroy Jethro Gibbs も season19で去る。確かに近年の Gibbs こと Mark Harmonの年齢からくる印象は段々と変わっていった。もう70だそうである。物語の中心から全体の押さえ役へとシフトしていた。切れ味は衰えたが重たい鉈の様なイメージへと変化していった。何かの決断があったという事か。

 

それでも決定的と思われるのは Pauley Perretteこと Abby Sciuto の降板で、そんな裏事情なんか知りたくなかった。幾ら否定しても物語を見ている過程で余計な割り込みが起きる。これは圧倒的に芳しくない。架空と現実が交差する事を脳から追い出す事は難しい。

 

思えば castleもそうである。good wifeの Alicia Florrickと Kalinda Sharmaがまさか不仲だったとは。そんなの知らなくてもいい。降板やキャンセルがその原因であるなんて不要な情報だ。

 

だいたい物語途中で死ぬのは別の番組で主役を張る時である。ささやかなファンからすれば喧嘩別れするのはそっと隠しておいて欲しい。しかしゴシップは作品の起爆剤である。そういう戦略を狙うのを否定できない。

 

仲違いと言えば松山ケンイチが遂に小栗旬を追い出した。途中まではどう見てもリークした小栗が悪い。当たり前すぎる。しかもたかが70%の確率である。香川照之などテレビのワイドショーに呼ばれればホイホイと出る似非科学者にしか見えない。

 

流石に見るに耐えられなかった所はスキップしたが、物語はオフレコのリークに伴う仲違い、政府の発表に関するパニックという様相が日本中を襲う。当然だが、作品がこうなる以上、この先で幾ら待っても日本沈没は起きなかった、その結果として総理は歴史上デマに踊らされた最も間抜けな仲村トオル、それを扇動した小栗旬、最悪であるデマをまき散らした新聞社の杏という構図で、その後の人生を描くのはかなり面白いはずである。そういう英断をしたら凄い。

 

そういう世間を騒がせた事に対するカウンターは、起きれば正義だが、起きなければ間抜けである。本質的にこの世界の脅威には手遅れから始めるしかない。地震予知で10万人を非難させて何も起きなければその非難は大きい。町内会で近くの公園に避難で終わるならば、全員が最悪と最善を比較してそのコストは許容する。

 

しかし首都圏退避となるなら話は別である。経済的損失などの補填、保証、責任が発生は無視できない。だから起きる前に避難するなどそう簡単には決断できない。パンデミックでさえかなり早い時期に宣言された方だと思うが、それでも結構な拡がりを見たから今も支持されているのである。

 

もちろん、広がったから宣言したのだが、それでもあれが2020年6月頃に自然消滅してたらテドロスチーフは今もその任にあるとは思えない。人騒がせな人としてワイドショーが年末に取り上げるであろう。

 

twitterでは首都圏脱出するのに上りも下りも両方渋滞している映像が矛盾であるみたいな話題で盛り上がっていたが、あれが、東と西に向かうちょうど分岐点だと解釈すればそう矛盾でもない。そういう場所があるかどうかは知らないが、どっちみち、避難であれだけの渋滞が起きているなら計画は失敗している。パニック状態だからである。

 

あれだけの渋滞が起きるのは、何も自然渋滞だけが原因ではない。まず高速道路のキャパを超えたら渋滞が発生している。入出制限さえ出来ていないなどあり得ない。渋滞学を研究した西成活裕によれば渋滞のメカニズムは減速の連鎖であって、この連鎖は次第に大きくなる。速度は次第に減速を大きくし遂には0に達する。ここで停止までの車間距離が足りなければ追突となる。

 

渋滞は前の車の減速をきっかけとするから、通常は上り勾配で起きる。または事故車の見物などである。11/7の東北道は酷かった。この人間の知能の限界というか、馬鹿さ加減を考えると、大きな渋滞が発生すれば、当然、燃料切れを起こす車、故障になる車、トイレのために停車する車が発生する。其れに起因する事故も起きれば、病気になる運転者も発生する。

 

通常はこれらに対して警察、消防、道路公団が対処し原因を取り除く事で渋滞を解消する。しかし、関東脱出時には路肩まで埋まっているだろう。恐らく打つ手はない。三車線あろうが四車線あろうが、完全に停止する。雪の日に車が停止するのと同じ現象により、東名の府中渋谷間を埋める何千台の車が順に備燃料不足に陥る。

 

それだけのキャパを裁くだけの燃料はSAのガソリンスタンドにも用意できないし、それを入れる時間までを考慮すると渋滞がどれほど続くかも計算できる。つまり渋滞しているのは避難の象徴としての画像であって、現実的に考えれば渋滞を起こしているなら既に避難計画は頓挫している。

 

それはパニック状態であり、ついに前にも後にも走らなかった車をの乗り捨てて高速道路を歩くしかなくなった人々の群れがそこにはある。実際には歩く人の間で強盗も暴力も起きるはずである。その狂乱状態には相当に集団的結束を持てた集団以外は対抗できない。避難どころではないのである。人間の敵は人間である。

 

という事まで描くかどうかは脚本の目指す方向にもよるのだが、どちらにしても、官庁では、避難計画に勤しむ人々、政治家の思惑、混乱期を狙った企業行動が描かれる。このような危機でも戒厳令も全体統制の法案も通さない政府も政府だと思うが、もしかしたら単に端折っただけかも知れない。

 

リークがばれた杏が官邸に呼ばれニュースソースの秘匿はジャーナリストとして譲れないと言い切るシーンは、アメリカのドラマで幾らでも見た。その記憶で描いているのかな、という感じ臭が強くして脚本家の不勉強さに少しイラっとした。

 

日本の新聞社、テレビでスクープを狙うというのは当然としてあるとしても、政府からの脅しに屈するのは常道である。記者クラブという既得権益を死守するため相当溜め込んだ不正事項を表に出していない。

 

つまり、絶対に勝てるまで寝かせておく情報を沢山握っている。これが安全弁でもある。そういう活動をしている連中の中で、疑惑だけで走り出す組織などあり得ない。周囲の反対を押し切って新聞の一面を飾る?リークする?どこの新聞社だ、という話である。

 

こういう矛盾には寛大である。だから実はそう悪いシーンとも思っていない。しかも総理じきじきの対話である。なんという事であろうか。そこには逆切れして、このフェイクニュースがなければあなたの立場は更に悪くなっているんですよ、会見しなさいと弁明する杏の姿がある。

 

何より官邸を出た後にぶるぶると震えがやってきて座ってしまう感じが悪くない。こういう描き方は、それなりにドラマに重みを持たせる。あんな軽い仲村トオルでも重みが感じられるのはこうやって周囲が盛り上げるからである。特に女性の俳優は圧倒的な演技力でそういう役割を担う。それは韓国ドラマでは特に顕著だ。

 

いずれにしろ、最後で地割れが起きる。地割れの前を手を握って走る二人がいる。あの震度で立っていられる自信はないが、まあこれも演出である。東日本大震災の時には関西にでもいたのかな。

 

東北の人たちが命を繋ぎ見出した津波てんでんこの事をこの脚本家がちらとでも思い返したなら、ここで手を握るシーンを入れたかどうかは疑わしい。特に地割れがしているならそこには断層があるという事である。どう見ても断層の上を走っているのである。ブラタモリでも見れてば、横に逃げる方がいいという知見を得る。

 

海水浴で離岸流にあった時にずうっとその流れの方向に泳ぐのは危険である。そういう場合は流れに対して垂直方向に泳ぎ先ずは流れの外に出る、それが第一にすべき事なのである。CGを描いた人もそういう疑問を持ちながら映像を合成したのだと信じたい。

 

細かい所を言えば、ちょくちょくあるが、物語は松山ケンイチという優れた官僚と、小栗旬というデマ官僚の対決という構図を示す。最後に地震が起きたので、どう考えても、これはデマが本当だった時の人間模様という事になる。

 

タイトルが日本沈没なので沈めない訳にはいかない。そして今は関東限定だから、この沈没が切っ掛けで他も沈み込むという方向に流れるはずである。その結果として、もう逃げる場所がないという事になって、そこで、小栗旬が呼び戻されるという話だと思うのだが、もちろん、小栗旬が首相になるシナリオまで有り得そうという気もしないではない。

 

だが、松山ケンイチが演じる常盤紘一の葛藤とか計算とか嫉妬を描くのは面白いかもしれない。この作品は現実的である松山ケンイチがどう良識で動くか、小栗旬の暴走をどう中和するかという話であるはずだ。

 

このドラマを自信をもって放送するTBSはかなりやばいという気もする。今の所、これはデマが暴走して勝利するドラマという筋書きになっている。トランプの扇動によって議事堂襲撃を支持する立場に近い。

 

すると小栗旬が民間の立場からデモを起こし政府を追及し正義を勝ち取るみたいなシナリオに向かうのか。雰囲気としては、従順ならざる日本人として著名な白洲次郎気取りだろうと思うのだが(美の巨人たち武相荘を見たばかりなので)、彼は何かをするまでに吉田茂と十分に話合ったろうと思われる。天皇にも一市民として忠誠であった。

 

ひとりで起こすのは反乱とは言えない。それに扇動して大衆を動かした所で、ポルポトを生みだすのが落ちだろう。高杉晋作であれば嬉しいが。強いて言えば山本太郎議員に近い。そのような人物像に好感は持てないし、小栗旬が演じる天海啓示彼の突破力だの、発想力、指導力では絵空事という感じしかしない。

 

それでも小栗旬が彼の弱さや悩みを演じるシーンは、実際に彼の行動との対比として説得力をもたせようとしているのだと思われる。しかし悩むのは家族の事、国家としての動きにはこれと言った苦悩を持たないシーンばかりである。安っぽい人道だの命だので説得しようとするのはTBSというか日本のドラマのテンプレートという気がする。

 

ここからの巻き返しこそ期待である。ドラマはこれから更に残酷な事実を突き付けるのであるから。