ロシア大統領、安倍首相に年末までの平和条約締結を提案

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「今、ちょっと思いついたことがあるのですが。」から始まるプーチンの大激震である。だが、落ち着いて考えれば、なんら進展のない状況に対してのアクションであるから、驚く方が暢気すぎたとも言える話だ。

 

多く、明日と同じ今日が来た。だからきっと明日も同じである。という日本のスタンスをプーチンの慧眼は見抜いていた。彼らの言葉を聞く限り、100年たっても進展はすまい、と喝破した。

 

ならば、とあのような場所で発言をする。こういう時に、咄嗟の瞬発力を持てる人は稀有である。僕には無理だ。だから、日本代表が何を言い返せなくても非難する気にはなれない。そして一週間もした頃に、あの席で、ああいえば良かったではないか、と膝を打つのである。

 

とっさの機転、これを最も鍛えているのが、おそらく芸人たちであると思われる。彼らは、生の舞台や日常の中でそういう訓練をしている。機転があってこその笑いである。日頃からの鍛錬が最後の勝負を決める。

 

囲碁や将棋で新手が出たと慌てるとき、ある人にとってそれは研究済みかも知れぬ。その時に、両者の間に生じるアドバンテージの差は明白だ。

 

だからプーチンがあそこで思いついた、というのは眉唾だろう。思いついたのはずっとずっと前だろうと思う。それを言わなかったことを激しく後悔し眠れない夜を過ごしたとしても不思議はない。だから、ここだ、というタイミングを見つけた。そういう話であろう。

 

では日本はどうすればよかったのか。ええ、もちろん、四島を返還していただければこの場で直ぐにサインします、とでも答えればよかったのか。だがこれはヘボ手な気がする。

 

四島を共同統治にするなら、今すぐサインしますよ、はありうるか。どうしも真面目な答えしか考えつかない。「何ら前提条件なしに」と明言した当たりがとても素晴らしい。

 

こう言われると、どうしても、締結後に交渉はしない、と明言しているように聞こえる。前提条件なしなのだから、四島問題は残したまま、という解釈もできるはずだが、そう受け取るのには勇気がいる。

 

もしとびっきりのユーモアで切り返していれば500年は歴史に名を残せたであろうと悔やまれる。大ローマの歴史にさえ残るようなそんな言葉もあったはずなのだ。あの場にいた人々は何かを期待していた。もちろん、激怒する手もあるが、それはスマートではない。

 

平安時代なら和歌で気持ちを読んでいたか。

北方の雪の便りを見るころは、ひとりになって海をみるらん
(年末には北方四島にも雪が降るでしょう。条約を結べばあなたは日本など見向きもしなくなり、私はひとりで国境となった海を見ていることでしょう) 

 

平和条約を結ぶことは、四島の放棄を意味しない。あくまで交渉の条件としたのは日本の都合に過ぎず、それくらいのカードした持たなかったことの裏返しでもある。日本はこれまで何回か、問題解決のチャンスを逃している。バブルのまっさかり、ソビエト崩壊の頃などはチャンスだっと思われる。あのあたりで、20兆でも40兆でも投じていれば解決していたかも知れない。

 

あの四島はどういう戦略的価値を持っているのか、固有の領土であるだけでは、おそらく弱い。既成事実を持つのはロシアも同様である。簡単に手放すはずがない。日本は韓国が実効支配する竹島(韓国はわが国の領土と主張するのは当然だが)さえ取り返せてない。奪還する手段は限られており、現代では手に入れているほうが圧倒的に強いのである。魚釣島も日本が実効支配しているから南シナ海を手に入れた中国でさえ手が出せないでいる。

 

戦争直後でさえアメリカはあの島の奪還を目論んではいない。戦略的に地政学的な価値が高いのであれば、何があっても奪還したであろうと思われるのである。実際に朝鮮半島では戦争を躊躇いなどしなかった。

 

戦略的な価値が低い、経済的な価値の少ない場所で起きる戦争は、先進国といえども介入しない。シリアであれ、イエメンであれ、大問題になっているが、直接的な介入には踏み切っていない。本質的に重要度が低いという判断があるからだと思われる。EUは難民問題が待ったなしの状況にあるにも関わらずだ。

 

だから、実はあの発言は、日本からのサジェスチョンによるものだとしてもこれもまた驚くには値しない。今の安倍政権は強力な支持に支えられている。おそらく平和条約を締結しても、彼の支持層は彼を支持し続ける。アベノミクスを支持する人が消費税増税に踏み切ってもまだ支持し続けるのと同じだ。

 

そこには「他の選択肢がない」の一言で片付いてしまう重要な背景がある。これが民主党政権の後遺症であるのは間違いない。そういう意味ではこの国はバブル崩壊から始まった変革において何回かの変遷をしながら完全な停滞状態に陥っていると思われる。多くの人が、安倍の後はない、という感想を持っている。

 

それが安倍晋三を支える原動力だ。どれだけの不祥事や官僚の腐敗が詳らかになっても、この支持は止まらない。止まるはずがない。ここでバスを降りたら、次のバスは来ないのだから。

 

どこに向かっているかは知らないが、これが最後の便である。プーチンがそこまで読み切って、安倍晋三となら締結できると確信したのか、どうかは知らない。

 

イギリスとロシアの間にある毒殺事件には、ロシア側の主張にも幾つかの穴がある。とても納得できない、というのが正直な感想だが、ロシアの意見にも一理ある。そして一理あれば、残りの9が嘘でも真実なのだ。そのことをロシアはよく知っているのではないか。

 

ああ見えてロシアは公文書をとてもよく保存しているそうである。だから、どれだけしらを切っても、百年後には明らかになる。逆に言えば、いつかは明らかにするから、今は知らを切り続けさせてというとても誠実な態度なのかも知れない。

 

なぜ毒殺に至ったかは知らないし、それが真実かも知れない。知るわけがない。だが、ワールドカップで乱入した人が毒によって入院したというニュースを見ると何もないとは信じがたい。もし彼れがやったとして、こっそりやればバレないものを、なぜこうも話題になるような形でやるのか。

 

そこがどうも信じがたい。日本の公安ならこんなお粗末なやり方はしない、と知りもしないのに言ってみる。だとしたら、これはニュースにならなければ意味のない事件であるはずだ。だとすれば、これらは誰かに対する明確なメッセージでなければならない。

 

プーチンが記者たちの前でいきなり語ったのも同様であろう。これはニュースでなければならないのだ。