不正は詳細を知らなければコメントできないし、その背景まで考えればさらに口数は少なくなる。もし自分がその現場にいたら、どのような行動を取ったかと想像すれば、何も言えない。
だが、問題はそこではない。Oリングと聞けば、エンジニアならファインマンの逸話である。
チャレンジャー号の事故調査で、彼はOリングが低温化で要求される性能を保てないことを発見する。それだけの話ならば、ただの技術的慧眼であった。
そうではなく、そこに辿り着くまでの探偵小説的な面白さ、そして、真の犯人はOリングではない、あなた達だ、とでも言いたげなエンディングに向かう巨大な物語。
世界で最も優れた機関にしてこの体たらくかと、当事者でない読者は快哉と叫べても、当事者であったファインマンたちの絶望を想像するとまた違った感慨を受ける。それでも講義を辞める気などさらさらなく、ただひたすらに確からしい事実を積み重ねる科学者の態度。
彼の結論は現実との擦り合わせの中で疎んじられ報告書に含まれなかった。それは付録Fとして残される。この付録FについてはWhat Do You Care What Other People Think?(困ります、ファインマンさん)で手軽に読むことができる。
わずか数ドルのたったひとつのOリングの背景に、予算何百億のプロジェクトが抱える組織の闇を覗き込むことができる。
もし三菱がこの逸話を知っていたならば、果たしてOリングの不適合品を出荷できただろうか。
Oリングとはシールを目的とするゴムや金属の輪っかの製品で、ピストンなど動くものの周囲に嵌められ密封状態を作りだす。
Oリング、Dリング、Xリング、Tリングなどがある。その違いは断面図を見れば明らかで、断面図がOの形をしていればOリング、Dの形をしていればDリング。目的は同じだが、様々な断面図を持つ。様々な用途や要求に答えるためだ。
NASAに対抗しうる機関にソビエトの宇宙開発局(設計局)がある。我々日本人は、ザクに大気圏突破能力がないことを知っているが、これはNASAの宇宙開発からの呪縛なのだ。本当は耐熱タイルなどなくても大気圏は突破できる。強力な耐熱タイルがなければ大気圏を突破できないという思い込みはスペースシャトルが教えた我々の科学的知見に過ぎない。
ということが以下のサイトに書いてあった。これが本当がどうかは知らないが面白い。
NASAは宇宙の無重力でも使えるボールペンを莫大な費用を投入して開発したが、その頃、ソビエトの宇宙飛行士はふつうの鉛筆を使っていた。この有名な話だが、実際は普通のボールペンで書けるらしい。
一方、ソ連は鉛筆を使った。 - Junkyard Review
なるほど、さもありなん。