日本沈没 #6

www.tbs.co.jp

 

岸部一徳の「メロンです。」は作品そのものよりも長く残るだろう Doctor X はワンパターンの面白さに立脚する。season毎に世相やその時の風俗を取り込みつつ、作品が幾つかの外せない点さえ抑えていれば割りに自由がある。

 

これは「わたし失敗しないので」というテンプレートさえ満たせば、どのように物語を形づくってもよい。そこに色々な意味を込めても構わない。その点では脚本家は腕の見せ所となる作品だろう。最後が常に決まっているとはいえ、どのような紆余曲折を辿るかという点が一話完結の醍醐味である。

 

打って変わって日本沈没は全体の流れが重要で、一話毎のテーマはそれなりに浮き沈みがある。それ次第で面白くなったり詰まらなくなったりする。ここに来て急に面白くなった。という事は関東沈没は作品の露払いみたいなもので、いきなり本論に進んでもリアリティがないという事で、その前に徹底してハードルを下げるためのナンセンスの集積ではないかと裏読みしたりする。

 

もちろん指摘したい点はまだ沢山ある。日本列島が丸ごと沈むのに韓国の領土もロシアも大陸も1mmも沈まない。そんなことあります?ウエストランドM-1敗退したのが残念で仕方ない。

 

そもそも杏と一晩すごして手を出さないなんて、そんなことあります?そのかわりアルコアンドピースに期待したい。

 

政府の首脳陣が香川照之しか頼れる科学者がいないと口にする。日本の科学力をなめてるのかとテレビの前で口にした人が山程いるに違いない。中国、アメリカには太刀打ちできぬとしても、それは主に実務系、大規模化であって、論理的理解で負けている訳ではない。

 

アメリカは原爆を開発するために街をひとつ作ったが日本は研究室をひとつ作った。この差が決定的で、知識の蓄積量の差は10^3程度は生じただろう。

 

それは応用面では圧倒的な差となる。同じ種からでも1mの木となる場合もあれば、20mを超す大木になる事もある。裾野の広さは、第一に基礎的理論の充実度となって表れる。その母数の違いは自ずと組み合わせの違いとなる。その数の大きさに比例して応用面での結実も差が開く寸法である。

 

日本の実験屋は予算の割りに努力と工夫によりよく競っている方であろう。今でも世界トップクラスの研究がたくさんある。しかし、予算の掛け方、組織構築の失敗、レッドテープの蔓延、国家方針の仕方ないとはいえ迷走から、結局は後が続かない。今の現役世代の引退とともに後退するのは目に見えている。

 

だが、それは開国以来、日本の課題であった。日本は結局はウラン235の分離に失敗し研究途中で敗戦を迎える。

 

物語としては見ればわずかな天才が突破するストーリーは魅力的だ。時にひとりふたりの人物が新しい支流を生み、いつか本流さえ飲み込む。

 

たった一人が切り開いたものはABC予想望月新一だけではない。大陸移動説のウェーゲナーはその調査中にグリーンランドで遭難し、プレートテクトニクスによって再発見されるまで死後30年後が必要であった。

 

死後に再評価された科学者のなんと多い事か。という事は今も埋もれている人がたくさんいるに違いないのであって、我々は表層に浮いているものだけを目にしている。深海にあるものは見ていない。

 

メンデルの植物雑種の研究もそうであった。カルノーの熱機関もそうだった。再発見を待っているという意味では、我々は常に車輪の再発明を必要とするのである。なぜならそれが新しいものを発見する手順だからだ。

 

物語が動き出す。まずは次話への最大の懸案がスキャンダルである。日本が沈もうという時にもスキャンダルが必要という辺りが妙にリアルに感じる。

 

実際に情報を隠したままなら、スキャンダルが中心になるのは理解できる。この作品は殆ど架空の事件に対して、スキャンダルを取り巻く人間を描く事で如何にもリアリティを与えようとしている様である。

 

いずれにしろ、作品として面白いと呼ぶには、話が転がり始めたという実感が必要で、その駆動力は石橋蓮司が担っているのは予想外であった。どちらかと言えば、物語を明後日の方向に進める邪魔をする立場かと思っていたから。そうではなかった。

 

この人が動き始めて、物語が動き始めたという事は、この人がこれまで動きを止めていた張本人とも言える。そこを小栗旬が小さな庭の中で飛び回っていたようにも思える。

 

ある意味ではこの架空の物語のなかで最も現実的な人物像とも言える。その意味では多くの観客の常識を唯一人で背負っている。経済か、人命か、という命題は、災害が目前にある時は、後先考えずに避難するという意味では、命である。

 

3分の空気、3時間の体温、3日の水、3週間の食料、これが生き残るのに必要な3だと言われている。つまり生き残ったらその直後から命を優先するのが経済である。いま生き残れば、恐らく三週間はなんとかなる。だが、その先に経済がなければ完全に立ち行かない。

 

この常識に立脚する以上、避難を考えるとは、その後の経済を考えるのと同義になる。そして日本から発生する難民をどうするかというテーマを作中で断言した以上、これを解決するための右往左往が今後のメインテーマである。

 

Dプランズ社という企業の存在は、次回は明らかにされると思える。この異常に政府に近づき、情報を入手し、先行して利益を上げるモデルは、明らかにパソナであろう。では、その企業はどの政治家と結びついているのかという点が、つまり次回明かされる秘密が、そのまま次にこの作品から退場するのは誰かという課題と同義となろう。

 

機を見るに敏はビジネスの基本でもある。それは否定できないし、例えば、共産主義国家ではそれが正統な活動でもある。その官民合わせた行動の優位性が、世界的にも力をつけている事は中国の台頭からも明らかだ。ちなみに日本も基本はその方法で成長した。

 

1億人の難民をどうするのか、この解決こそ、この作品のピークにある。どのような発想で打ち出すのか。企業に人を括りつけて売り飛ばすという作中の提案は現実的であった。

 

日本という国家がビジネス上、不利益な環境という事になれば、特にグローバルな企業は、本社を日本以外に置く事も検討するはずだ。特に日本人の特性が失われたり人材に魅力がなくなれば、ここにある必要性はない。真剣に検討するに違いない。

 

新興国に本社を移動する、現在の社員も家族ごとそこに移住するという決断をすれば、それは現実的になる。もし治安に問題があるなら、軍隊ごとその国の中にコミュニティを作り上げればよい。教育も必要なら学校を作る、移住先の人々との融和なり融合なり対立なりが必要ならそれなりの行動原理を確立すればよい。これは企業による国家乗っ取りのモデルでもある。

 

土地がなければ作ればいいじゃない、と百万隻のタンカーを海上に浮かべて全国民がそこに住まわせるのだってそう荒唐無稽ではない。地球を捨てて移住するSFがある以上、海上に国家を設立する事もありな気はする。

 

陸地を持たない国家というのは、そう多くはないが昔からあった。近代国家以前は移動しながら生計を立てていた民族は幾つもあった。土地の所有という概念がとても希薄な人によって大帝国が成立した例もある。

 

いずれにしろ、難民の受け入れが拒否された以上、価値のあるものを売りつけるか、隷属を受け入れて移住するか、奪い取るしかなく、それ以外に行く場所はない。

 

もしこれが1492年(北条早雲の頃)以前ならアメリカ大陸への大移動も可能であったか。そこで原住民との合戦であろうか。

 

他にどこが考えられるか。広大な砂漠地帯、北極の氷上、それとも宇宙か。

 

結局、日本は困ったらアメリカ頼みである。広大な砂漠地帯を開拓する条件と引き換えに移民を受け入れてもらう、全ての企業を誘致し、持ち出せる限りの資産をアメリカに譲れば、どうだろう?

 

しかし、日本の国力の殆どがアメリカに対する貿易で得ていたものと考えると、アメリカ市場の外にいるから日本は繁栄したのではないか、という疑義もある。アメリカ国内ではあらゆるもの、特に物価に対する優位性が失われる。

 

国家毎の価格の違いが輸出入を促進している。これが世界で起きている事だ。同じなら優位性は失われる。するとその巨大な市場の中には強者と弱者が生まれるが、条件が同じなので、競争する手段が限定される。

 

EU内では、かつての東北の人が東京に出ていたように、ドイツへの出稼ぎが中心となっているのではないか。難民たちも多くがポーランドを超えてドイツを目指しているようである。しかし当のドイツが抱えられる労働力は限界を迎えつつある。これ以上の受け入れは間違いなくニューナチスを台頭させる。

 

人間を労働力としてしかカウントしない事が恐らく経済の象徴として描かれている。だが、実際の経済はその程度の範疇にあるものではなく、命の次に来るものであって、長期的な命のためには経済が欠かせない。経済の派生としてしか軍隊も学問も娯楽も成り立たない。だから、今でも日本は奴隷を受け入れようと躍起になっているのではないか。

 

さて、裏切り者の香川照之である。どう見ても胡散臭い人間である。この程度の学者に頼らないといけないから物語が成立する。つまり、不安定さの一因としての役割を担っている。だからこれまでの真理を追求する学者という側面を敢えて捨てたのであろう。

 

検察が誰によって動かされたかという情報からこのスキャンダルは解決されるのではないか。そして、引き換えに国民に沈没の予測が公表される、って感じになるか。しかし、それが起きると、いよいよ話は動かなくなりそうである。パニックをどう落ち着かせるかを考えると難しい。

 

どうやってこの重量のある物語を動かすか、次を担うのは誰だ?