プーチン大統領に制裁、資産を凍結へ 米、英、カナダ、EU

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ロシアが対話を求めている事からも分かるように、ロシアには明確な出口戦略を持っていると思う。ただし相手がそれに乗ってくるかという点が問題である。あれだけの周到な準備と一気呵成の侵略に対して、早くも両者が対話を求めるという点でロシアの要求は、ヨーロッパにもアメリカにもなく、ウクライナに向けてである。

 

その交渉の席では次の点が合意されるのではなかろうか?

  1. ウクライナとロシアの安全保障条約の締結
  2. ウクライナにロシア軍の駐留を認める事
  3. 戦争前に承認された国家も含める事

これを言い換えれば

  1. NATOは諦めろ
  2. 米軍をウクライナ領土に引き込むのは止めてくれ
  3. 親露国家の独立は認めて

となろう。

 

早い話が「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」のウクライナ、ロシア版を求めているのである。と、そこまでなら理解できる気がする。と言っても別に外交官でもあるまいし、3日後の趨勢がどうなっているかは知らない。そう考えるという程度の話である。

 

もちろんウクライナはロシアと安全保障を結ぶのだからNATOに加盟する必要はない。また対等な同盟関係だからウクライナがヨーロッパと取引をする事を否定しない。平和裏な貿易なら幾らでもどうぞ。

 

そのための落としどころとして、ヨーロッパ寄りの民主主義は困るのである、というのがロシアの本音だろうし、できればロシアべったりの傀儡政権による院政を引きたいのだろうが、その辺りはどうなるか。

 

もしウクライナのゼレンスキー大統領を暗殺したり処刑とかしたら、ロシアは世界中からのけものにされるだろう。彼の命だけがロシアの安全保障になる。

 

この戦争で明らかにウクライナでのロシアの評判は地に落ちた。彼らの中に残ったのは敵対心だけであろう。ロシアは信用できないという思いがこれから百年は続く。この百年は、今回は例え失敗しようとウクライナをして最終的にはヨーロッパと手を取り合う未来を指向させる。

 

この路線が決定したのである。常にウクライナはロシアの呪縛と向き合う事が確定したのである。屈辱は百年をして失われない事を日本は身をもって知っている。

 

この人々の気持ちをロシアがどのように理解しているか。人の良い、人情に厚い、酒飲みとしては気持ちのいい友人であるロシア人が、どこまで世界中から嫌悪されるか、という点でこの戦争は大きいはずである。少なくとも世界中の人々はロシアを信用しないはずである。この点ではどれほど彼らがその正統性を繰り返し訴えても拭われない。それはウクライナという緩衝地帯を手に入れたくらいでは割りが合わない負債だと思うのだが。

 

ロシアにはロシアの主張がある。なぜこの世界の歴史を勤勉にも学んできた世界中の人々は、なぜそれでもヨーロッパを信じる気になるのか。現在のどの戦争もどの紛争も全てヨーロッパの”欲望”に起因するではないか。世界で流される血の殆どは、その原因を追究すれば必ずヨーロッパに帰結する。

 

ヨーロッパは池に石を投げ込んでは遊んでいる。それが造る波で池の上で暮らす我々は波にのまれ、そこから逃れようと岸にあがろうとする。すると彼らは我々を足蹴にするのである。ここはお前たちの住むべき場所ではない。戻れと。

 

もしプーチンがそう主張するならこれを否定する明確な歴史はどこにもない。

 

すくなくともヨーロッパは歴史的責任をまだ取っていない。

 

だからといってロシアとて血塗られた手で歴史を書いているのである。東欧がヨーロッパを目指す理由はロシアの中にある。ソビエト連邦時代を思えば、その正統性は当然の帰結なのである。過去が我々の命綱なのである。

 

しかしEUを目指すのも多分に経済的な理由のはずだから、もしヨーロッパが没落してしまえば話は変わる。百年後のヨーロッパがまだ彼らの理想郷として存在しているかは分からない。22世紀はそう容易い時代ではあるまい。アメリカが国家として国民の程度が下がりきり、まともな政府運営もできないほど没落しても不思議はないし、アフリカが台頭し世界の中心に立っていても驚きはしない。

 

その時には中国や日本が経済的にどうなっているのだろう。それは50年後にどのような教育をしているかに掛かっているのだから、それまでの積み重ねの問題である。つまり現在をないがしろにはできない。もちろんAIの発展によって人間の教育など意味がなくなる未来もありうる。

 

そもそもそれ以前に世界はまだ存続しているのか、この星は人間をこれ以上許容するのかという問いがある。まして核戦争に発展しない保証さえない。恐らく、ヨーロッパやアメリカの出方次第では、キューバ危機以降の最大の危機となる。だからアメリカも迂闊には行動していない。

 

ロシアは対話を望む、ヨーロッパは見捨てるつもり、だからアメリカの決断だけが重い。そしてこの決断はアメリカをして今後を占う試金石となる。中国はだから注視している。アメリカにつける値札を書くためのペンを用意して。

 

ウクライナがロシアの侵略に対抗するには核を持つしかなかった。恐らくそれが唯一の答えであろう。かといって北朝鮮の戦略が正しい事が証明された訳ではない。同等の数の核を持たなければ対抗となりえないのである。この戦争はそれを教えている。

 

もしウクライナが核を使おうとしたらロシアは先制であれ報復であれその何倍もの核を使うだろう。その時には核抑止は働かない。使う時は必ずエスカレーションしかない。

 

本気で全面戦争を辞さない、人類の滅亡さえ辞さないと覚悟した人間が為政者になってしまえば、その要求を撥ね返すオプションは実に少ない。その脅迫の前にどのように対抗すればいいのか。その仕組みを持っていない事をプーチンは証明しようとしている。もちろん、ゼロではない。暗殺や自然死、クーデターなど幾つかはある。だがヒットラーの暗殺さえ失敗するのが世の常である。

 

ケネディは本気で核を使う気だった。だから、フルシチョフは退いた。ソビエトの撤回は決して意味がない訳ではなかった。ホットラインが引かれ、もし対話がなければ次は起きるかもしれないとアメリカとソビエトが合意したからである。

 

ではプーチンとバイデンはどうか。バイデンは良識の人間だと思うがガッツのない人間ではあるまい。例え彼の生命を縮めるとしても対話と対決から逃げはすまい。しかし一方でここで道を間違えれば、アメリカは再びトランプを支持するはずだ。彼が長寿である限り。そしてアメリカの本当の敵は中国である。ロシアを相手にする余裕はないはずである。

 

ヨーロッパの価値観で見れば、今回のロシアがやった事はとても許されない。しかし喉元にナイフを突きつけられていたのはロシアの側であろう。ヨーロッパはそれに無頓着である。そしてフランスの次期大統領は極右の誰かだ。ドイツだって遠からずそうなる。その時までこの戦争の意味は不明のままではないだろうか。

 

ロシアには言い分がある。ウクライナはいいとばっちりである。ヨーロッパは無自覚、アメリカは苦悩している。そして中国が静観している。

 

残念ながらこの不幸の中で日本政府が何かのイニシアチブを取るとは思っていない。それでも外交、国連、NPO、色々な場所で日本人が働いていて、この戦争の中で走り回ってその苦労がそれでも世界に貢献すると信じる。

 

それでも近い未来に国際連合がふたつに分断する未来が来るとしたら?