日本沈没 #8

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最近見ている「王様ランキング」。最近のアニメは女子の声がきんきんする声優が苦手で見ていなかったが、この作品には出ていないので観劇に耐えられる。この辺りは好みの問題だから仕方ないとしたものであろう。

 

アニメであれ漫画であれ、ストーリーが中心にある。そして演出、キャラクター、動画、音楽、と総合してひとつの作品になる。ストーリーが同じなら同じ作品と言ってよく、それでも総合芸術という点では、作る人が変われば全く違う作品と言ってよい。

 

作品の中心がストーリーであるのは間違いなく、それ以外は全て装飾である。所が、額縁込みの価値観が映像という作品だから、部分の突出だけでは作品とは呼べないが、また部分の突出だけでも作品たりうる。

 

サブキャラクターが異なるストーリーでスピンオフが成り立ったりする。時にそれが本家を超える。そして不思議な事に、本編で魅力的だからと言ってスピンオフで主役がはれる訳ではない。不思議なものである。

 

それぞれの作品がそれぞれに仕方のない現実と向き合い、その結果として完全な作品などありえず、締め切りと戦うクリエータたちは常にどこかに着地させざるをえない。その妥協の仕方こそが人間らしいと呼んでも構わない訳だ。

 

王様ランキングが同じストーリでも絵柄が違えば全く違う作品になるだろうという点は想像に難くない。この作品はストーリーの壮絶さに対してあの絵柄だから深刻にならずに済む。

 

よく似る絵柄の大砲とスタンプでは、最後にみなごろしの富野よろしく死生が仕分けされたのには閉口した。いまさら最後にそれを持って来る必要はない。その戦争のリアリティを自分は求めていない。創作であるからこそ、これは必要ない描写だ。戦争の現実を描く権利は作者にもありはしない。個人的にはそう感じた。この作品を二度と読む事はないだろう。

 

いずれにしろ、作家の魂と読者の魂が対立する事は常であって予定調和とは限らない。それは仕方のない事だ。好き嫌いの問題はある意味では時間の不一致に過ぎない。タイミングが悪かった。もし5年前なら感動した話に辟易とする事も、またその逆もよくあるのである。一生の感動などあり得ない。一生の刻印なら有り得る。

 

さて、沈没である。やってくれたと思ったのは北方領土である。きっとロシア外務省も苦々しく見ていた事だろう。北方領土に済んでいるのはたしかロシア人である。当然抗議すべきだが、架空の物語である。最近のプーチンは何か老いが始まった感がある。理屈は通用しなくなりつつある気もする。さて、どうしたものかと悩んでいるのではなかろうか。

 

ラストシーンで世界中の人たちが日本に支援を呼びかけるSNSが流れていた。この物語は常に物量についての想像力に欠けている。数人が旅行に行くのではない。作中でもはっきりと描かれていたように、大きな街がそのままやってくるのである。その瞬間には特需が起きるだろう。家も建てないといけない、家電も必要、食料も消費する。だが、その人達のお金はどうなっているのか。

 

この事態で日本円と自国の通貨の交換を認める国などないだろう。すると日本が持つ全資産は外貨で売り払うしかない。それを国内の日本円と交換して移民者を渡してから送り出す。現実的には半数の5千万人は海に沈んでもらうとしても凄い量のゴミが出る。とてもではないが、太平洋は100年はゴミの海に変わり果てるだろう。海流が変わる為に気候変動も起きるはずである。沈没などその後の世界の激動の序章に過ぎぬのは確かな事だ。

 

沈没が世界中に知れ渡ったら、日本円は紙くずに等しくなる。国家単位として移住できて貨幣を発行できるなら別だが、そのためには土地がいる。そのような土地を渡してくれる国があるかどうか。第二次世界大戦前にはユダヤ人のために土地を探した話もある。

 

しかしインターネット上に国家の貨幣を作るなら、土地はいらないはずだ。すると仮想空間上にだけ国家を残す事は不可能ではない。だが、実際には従う法も政治も土地とは切り離せない。

 

日本円が無価値でも国内での流通には困りはしないだろう。しかし、誰もその紙幣に見向きもしないはずだ。100枚の一万円より1セントの硬貨の方を欲するはずだ。すると国内の流通も全て破綻する。銀行が業務継続するのは一月も持たない。国内の製造業も流通も全て停滞して、どうやって生活が成り立つか。物々の略奪しか起きえない。

 

円の流通が停止した中で、日本政府はアメリカの国債などを全て現金化しようとするのだから、それは全ての円をドルに建て替えようとする動きであるから、世界中のドルが不足する。世界的にドル高になる。世界的な政情不安はもしかしたら戦争を起こすかもしれない。その戦争は日本国の移動先となる土地を見つけ出すかも知れない。

 

この地上に残された地域は南極しかない。だが、そこで生き抜くのは不可能だ。宇宙に行くには科学技術が低すぎる。

 

さて、物語の最後に仲村トオルがテロかなにかで消えた。という事は総理は誰になるのかが次回のコアになるはずだ。もちろん、小栗旬になって頂く。演技はいざ知らず声優としては非常に魅力的な声である。というか日本の俳優の殆どは声優と呼んで差し支えない。それくらい声に演技力がある。

 

次回予告を見る限り、最終回で完全に沈めるようだから、映画化はなさそうである。困難、辛苦、挫折、希望、そういうものを二時間で描き切れるのかという疑問もないではないが、しかし2時間ならこれはもう映画のつもりで見ればいいのである。

 

如何にここからの怒涛を描き切るのか、実は全員が脱出すれば終わりでない事を今回は深く匂わせた。全員が脱出できるとも限らない事も示唆した。犯罪者はどうするのか、行った先での差別はどうするのか。課題をきちんと俎上に挙げていた。

 

日本人を捨てられるのかという現実にさえ迫っていたのである。ごった煮ではあっても、とりあえず搔き集めた様々な課題を提示した。

 

これだけのテーマの作品を一過性だけで取り組んだのか。これまでの全てをふっとばすようなカッコいいセリフ、素晴らしい描写、そしてメッセージがあるのか。たった30秒ぐっとくるものがあれば全てをちゃらにできる。それが映像作品の素晴らしい点だ。